『掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集』

この本を読むのは、なんだかすごく心地が良くて、少しずつ大切に読んだ。
発売してすぐに開催された、翻訳者である岸本佐知子さんと山崎まどかさんのトークショーにも行き、そこでルシア・ベルリンは、自分の体験をもとにした作品を多く書いた作家であるということを知った。
読み進めていくと、この物語に出てくるこの人は、別の短編に出てくるあの人のことだな、とわかる瞬間がある。いくつもある。
そこに描かれる、掃除婦として働く日々、幼馴染との別れ、末期ガンの妹との会話、アルコール依存症の日々、引越しの多い子ども時代と理不尽な大人たち。
それらを時系列に並べていくことに意味はないだろう。これはエッセイでもドキュメンタリーでもないことは読んでいればすぐにわかる。
すべての文章は、時系列から解き放たれ、作者の手によってあるべき形に編集されている。

けれど、語弊を恐れずに言えば、私はこのような記憶の取り出し方を、自分も知っているように感じた。それはもちろん、作者がそう思わせるのだ。記憶というのはこのように、時系列を無視して脳内に日々陰影を描き出しているものだと。

ささくれを引き抜くように、毛玉を吐き出すように、切り出された記憶を物語にして植樹するような、宙に放るような、物語の描き方を想像する。
それが実際にルシア・ベルリンのとった方法かどうかはわからないけれど、きっとそのようにして描かれたはずだ「私にはわかる」なんて言いたくなる親密さがこの本にはあって、
なるほどトークショーで繰り返し「おれたちのルシア」と語られていた感覚はこれなのかな、と思ったりもした。

そんなふうに、この本を読んでいると、彼女の記憶に、彼女の目を通して触れているような心地がする。

ただ、『さあ土曜日だ』という短編については少し書かれ方が異なっているように感じた。
ある刑務所で行われている「文章のクラス」の物語で、語り手が文章を読み、書くことの楽しさを受け入れていく様が、我がことのように嬉しい。

「文章を書くとき、よく『本当のことを書きなさい』なんて言うでしょ。でもね、ほんとは嘘を書くほうが難しいの」/p248

この短編に限って言えば、視点がルシアの1人称ではないのだけれど、だからこそ本当の部分がはっきりと浮き彫りになっているように感じた。
そこに書かれていることと、意図的に書かれていないこと。

何を書くか、書かないか。それを自分で決めることこそがプライドであり、自由なのだ。

WERQ THE WORLD ドキュメンタリーを見ました

今回はWOW Presents Plusで配信されている、WERQ THE WORLDツアードキュメンタリーの感想を書きたいと思います。
「WERQ THE WORLD」とは、VOSSイベントがプロデュースしている、RPDR(ル・ポールのドラァグレース)クィーンをフィーチャーしたワールドツアーのこと。日本語の情報が少ないため、まだよく知らない部分もあるのですが、ウィキペディアによると、2017年にスタートしたイベントのようです。世界各地で公演が行われていることからも、今やRPDRの人気が世界規模であることがよくわかります。

WOW Presents Plusで配信されているのはこのツアーのバックステージドキュメンタリー(アイドルファンが大好きなやつです)。
しかもツアー参加メンバーの1人1人(+スタッフ回もあり!)をフューチャーした作りになっているのが最高。

全部感想を書きたいくらい良かったのですが、日本語字幕がないため私の英語力で理解できる範囲は限られていることもあり、まずは推しであるアリッサの回のみ感想を書きたいと思います。

WERQ THE WORLD

worldofwonder.vhx.tv

このドキュメンタリーはおそらく2018年後半のもので、S10の優勝者がきまったばかりのタイミング。公演によって数人の出演者が入れ替わっているようでした。アリッサはその中の2つの公演(バルセロナマドリード)に出ており、これの出発前後のことは、Netflixで配信されている「ダンシングドラァグクィーン」*1でもちらっと見ることができます。

番組の構成は、クィーンたちのインタビューとバックステージでの様子や、meeting&greet(ファンとの写真撮影など)、ショーの様子などで構成されています。
ドラァグレースで見るのとはまた違う、クィーンたちの個性がよくわかる場面がたくさんあってとても楽しい。
おそらくこのツアーのホスト役で、いつも陽気な盛り上げ役のシャンジェラ。メンバーの母親のようなラトリス。真面目な長女的ポジションのデトックスケネディは実はどこでも眠れる特技があるなんてこともわかる。
ヴァレンティーナやヴァイオレットは末っ子らしい奔放さでバックステージでも元気。常に落ち着いていながら、気の利いたセリフで人々を笑わせるキム・チー。シャロンとアクアリアという偉大なドラァグ母娘のやりとりが見れたのも貴重でした。
よくクィーンたちの話題に上っていたのが、meeting&greet(ショーの前に行われるファンミ)に遅刻するかどうかということ。
ラトリス曰く「TeamStayReady(遅刻しない組)は私(ラトリス)、ケネディデトックス、キム・チー、シャロン。The slackers(遅刻する組)はヴァレンティーナとヴァイオレットとシャンジェラ。ここにアリッサがいたら恐ろしいわよ。時間の感覚がまっったくないから」とのことで(お疲れ様です)、まあ実際その通りであることがわかるのも面白いです笑
中にはあまりにも遅いのでミーグリ無しにされたヴァレンティーナとヴァイオレットがスタッフに直談判に行く場面もあったりする。
つまり、遅刻する組は決してミーグリをしたくないわけではなくとにかく準備が遅いんだと思います……。とはいえ、お互いの悪いところを指摘しつつも、お互いへのリスペクトを忘れないクィーンたちのやりとりは見てて気持ちが良い。

アリッサ・エドワーズ回について


ウィッグを梳かすアリッサ

アリッサがツアーに合流した時のことについて、シャンジェラ(アリッサのドラァグドーターでもある)はこう話していました。

私のドラァグマザーは、ここに来るなり「ミス・シャンジー、何をすればいい?」って言いだしたの。オーマイ……笑 そんで私は言ったわけ。「とにかくやるしかないのよママ。ファンのためにね。やるしかないの!」ってね。

……と、そんな具合に、おそらくあまりスケジュールも把握できていない状態で参加したと思われるアリッサなので、爪を塗っていたら(もしくは付け爪をつけていたら)、周りに誰もいなくなってしまい「シャンジー?」「ケニー?」とおろおろ探し始める場面などもありました。
「Oh, Lord, child, Jesus save me.God save the Queen.(主よ、子よ、イエスよ、私を守って。女王陛下万歳)」
なんて呟きながら短い階段を降りていくアリッサ……。そしてそのまま何事もなかった顔をしてリハに合流している場面は笑ってしまいました。

しかし周囲を伺っていたのもつかの間、すぐに持ち前のサービス精神を発揮し、カメラに向かって延々としゃべり始めます。

シャワーが故障したとなれば、一緒に浴びるだのそんなのごめんだの言い合い、スタッフが来たら「インタビューさせてください、これはお湯の節約ですか?」なんて中継の真似を始める。
かと思えば「疲れた時はこうやってハンニバルレクターになるの」とおもむろにパックを始め、「これ誰の?」って聞きながら、ためらいなく誰かのプリングルスを食べ始める。
とにかく自由なアリッサです。

しかしそんなアリッサに輪をかけて自由なのがヴァレンティーナ。

アリッサ「ねえ、WTWのどんなとこが好き?」
ヴァレンティーナ「私のパンストの匂いを嗅ぎたい? これずっと使ってるの。幾つの街で使ったかわからないくらい。ねえ嗅ぎたい?」
アリッサ「……私はあなたの友達であってファンじゃないんだから、あなたのパンスト、もとい下着の匂いなんて嗅ぎたくないわ」
ヴァレンティーナ「でもこれぞドラァグの匂いじゃない?」
アリッサ「私のはシャネルのNo.5なんで✋」
ヴァレンティーナ「このビッチ!✊」

なんてやりとりがそこら中で行われていてファンにはたまらないバクステ映像が目白押しです…。

こちらのツイートで、自撮りをしながら1人でしゃべり続けてるシーンが見れます。

クィーンたちが語るアリッサ

他のクィーンのアリッサに対するコメントが色々聞けたのも面白かった。いくつか抜粋してみますが英語字幕を自分なりに訳してみたやつなので、間違いもあるかと思います(ラトリスのは難しかったので英語のままです)。

「Alyssa's secretや彼女のドラァグレースにおけるキャラクターが作られたものであったり、強制されたものであると思ってるなら、それは間違いよ。彼女はハイヒールを履いたコカインなの」

  • キム・チー

「アリッサはこの宇宙の出身じゃないわ笑 彼女はクレイジーで、彼女はセレブなの。彼女がディーヴァであるようにね。もちろん、ディーヴァというのは悪い意味じゃないわ。彼女については語りつくせない」

  • ラトリス

「Oh, there's gonna be a good time with Alyssa when she's here, honey, because we go through the shenanigans, honey, and we gotta go through rigor morits.
She is fine, and she can stay ready as well. And she don't give a shit.
She gonna be ready when she get ready.
But she also delivers. The fans love her. Her personality is beyond beyond.」

  • ヴァイオレット

「ミス・重要人物。アリッサ・エドワーズ。何から話せばいいやら笑 彼女はだいたいにおいて、すごい壮大な方法で突き進んでる」

「彼女は尊敬すべきロールモデルで、周りに偉大なエネルギーをもたらし、私をいつもサポートしてくれるわ。彼女はいつも私に素晴らしいアドバイスをくれるの。彼女はいつも私を信じて"あなたはスターよ。そのまま行きなさい。あなたはすごいのよ"って言ってくれる」

プロのパフォーマーとしてのアリッサ

バックステージでは愉快ですが、パフォーマーとしてのアリッサはやはり真面目だし、プロフェッショナルです。
スタッフのインタビューではこう語られていました。

RAY PIERCE氏(ステージマネジャー)
「アリッサは彼女がしていることについて、驚くほど芸術的な意図を持っています。
彼女が劇場に入ってきて最初に提案したのは「どこから登場したら観客がグッとくるパフォーマンスになるか」ということでした。
そして彼女は誰も気づかなかった「バルコニーから客席を通り抜けて登場する方法」を見つけたんです。
それはただのパフォーマンスではなく、彼女は観客との接触をできるだけ多くすることで、彼らと繋がろうとしていたんです。彼女のパフォーマンスを見れば、それが成功していることがわかるでしょう」

そしてステージの映像が流れるわけですが、それを見れば観客たちにとって、それが特別な一夜になったであろうことがよくわかる。

バックステージに駆け込んできたアリッサが「最高だった」「みんな最高に熱狂的!」と興奮している様子を見るのは、きっとこの日参加した人たちにとっても感動的なことだっただろうな、と羨ましく思いました。

「私はいつかこの日を振り返って言うでしょう。「あなたはこれをやったのよ。あなたがこれをやったの。小さなメスキートのゲイボーイがね」と」

「私がクロスドレッサーとしてマドリードを旅することになるなんて、誰が想像できた? ドラァグクィーンとして、パフォーマーとして、イリュージョニストとして、”なりすまし”として……、scratchから生み出された”アリッサ・エドワーズ”としてマドリードにいるだなんて、きっと100万年たっても信じられない」

これらのセリフからも、アリッサは常に自分の原点を忘れていないのだなと思う。
真摯に夢を生き、人々に勇気を与える存在であることに誇りを持っている姿が本当に大好きです。

ついにやってくるWERQツアー!

そしてこの、クィーンたちがそれぞれのベストパフォーマンスを見せてくれるwerq the worldツアーが、おそらく来年日本にもやって来るらしいのです…!

genxy-net.com

今までファンの方の撮ってる映像とかでしか見たことないんですけど、肉眼でクィーンたち見れちゃったら興奮で蒸発してしまいそうです…。
絶対に、なんとしてでもみたい、、、、という気持ちと、次のツアーにも日本を考慮に入れてくれるくらいの盛り上がりになりますようにという気持ちが同時に押し寄せていますが、
ともかくドラァグレースにハマるのに、いつだって今が最適のタイミングであるということはお伝えしたいと思います。

If you can't love yourself, how in the hell you gonna love somebody else?

最近、ルポールのこの決め台詞を思い返すことが本当に多い。


アリッサ推しになった経緯についてはこちらに書いています。
ichinics.hatenadiary.com

水色

とても頼りにしている人が遠くに越してしまうことがわかり、それがとてもショックで、近頃少し宙に浮いた気分でいる。
私はショックなことがあるとすぐ、重石を結びつけるみたいにして、それを沈める方法を探しがちだ。

思い出すのは大学生の頃、新しく買った水色のモカシンを玄関に並べて、明日それを履く自分を想像しながら部屋に戻った夜のことだ。
漫画を読んでいたら、階下から弟の泣き声が聞こえた。それから「お姉ちゃんに怒られるよ」という母の声。遠くに電車の音が聞こえるのは冬だった。
階段を降りてみると、あたりは灯油臭く、私のモカシンがずぶ濡れになっていた。
当時我が家では(おそらく今も冬は)玄関に置かれたポリタンクから、ストーブの灯油缶に灯油を注いでいたのだ。
どうやら弟はそれを失敗して、玄関に灯油をまいてしまったようだった。
ねずみ色に変色したモカシンを見て、母親は「諦めたほうがいいと思う」と言った。
その瞬間、残念だという気持ちや靴の値段や明日着るはずだった服のことがざあっと体を通り抜けてゆき、なぜだか「怒るのはやめよう」と思ったのだった。
灯油缶に灯油を注ぐ作業は我が家で特に面倒な作業として位置づけられており、しばしばじゃんけんで負けたものの仕事になった。何より、弟は何をするにしても悪気のあるタイプではないのだ。
すごくすごく残念だったけれど、怒ってもモカシンは帰ってこない。
そうして、私はそれをあっさりと捨てた。買ったばかりのものを捨てるなんて、多分あの時が初めてだった。
だがそれは決して弟への思いやりではなかった。
解決の糸口がない感情が沸き起こるとき、自分にはそれを手放すことで楽になろうとする傾向があるのを知っていた。なくしたものを振り返るより、重石をつけては放り投げ、波紋が消えるのを待つほうが楽なので。

だけど、少なくともあと5年はその人を頼りにする気持ちでいたので、その連絡はいまだにショックなまま手元にある。
ただ、それが自らの夢を一つ叶えた結果なのだと聞き、私よりずっと年上の彼女が、新たな夢を叶えたということに、揺れる船から街明かりを見つけたような気持ちでいるのも確かなのだ。
彼女がこれから暮らす街はあまりにも遠い場所にあり、私たちは個人的な連絡を取るような間柄ではないため、おそらくこの先、一度会えれば良いほうだと思う。

彼女が私に「なんだか顔色が悪いね」と言うとき、私は決まって水色のトップスを着ていた。だからあの靴も、きっと似合わなかっただろう。
けれど1度くらいは履いてみたかった。今は素直にそう思う。

新しい体

先日、携帯電話の契約を格安SIMに乗り換え、同時に機種変更をした。
それまでは2年縛りの契約だったので、そうと決めてからは契約更新月が待ち遠しく、SIMフリーの端末を用意した状態で待ち開始日に即手続きをした。
直前になって自宅のPCにバックアップを取ろうとしたらライトニングケーブルが反応せず(純正のケーブルを購入して解決)、ようやく繋げたと思ったらストレージ不足で保存できず(Adobe関連を諸々削除して解決)、そんな具合に、おそらく6年くらい使用したiPhoneを新しくすることにはそれなりの緊張感があった。

けれど、それからひと月経った今、私がこれが新しいことを忘れかけている。
たまにキャリア決済にしていたサービスが更新されていないことに気づくくらいで、ごく自然に、私がいつも使っていたものの延長線上にあるものとして接している。
当初は気になった重さにもすでに慣れ、古い方(まだ手元にある)を手に取るとむしろ違和感があるくらいだ。

真新しいのに、前の前の携帯で撮った写真やメモした内容が、全てではないにせよ残っているこの機械は、そのまま体だけ交換した新たな外部記憶装置のようだ。
これが逆に「古いiPhoneが初期化された」状態だとしたら、全てが違和感だらけだっただろう。

これを人に置き換えて考えてみたとき、もし仮に、体と記憶のどちらかを失うとしたら自分はどちらを選ぶのだろうか。
どちらかといえばーー記憶が途切れることの方がより怖いような気がする。
しかしそれが他者だったとしたら、記憶という目に見えないものより、肉体が失われることの方が恐ろしく感じるだろう。
その差はなぜなのかをなんとなく考えている。

たまに古い方の電源を入れてみると、wi-fi環境にあるので新規にメールを受信し続けているのが健気だ。
早く下取りに出そうと思いつつ、初期化するのに若干の躊躇いが生じるのが面白いです。

「ル・ポールのドラァグ・レース 」S6からS11の感想

春にはまって以来、相変わらず「ドラァグレース」を追いかけ続けている毎日です。
S11が終了した寂しさもつかぬま、クィーンたちのワールドツアー「Werq the world」のバックステージドキュメンタリー配信がスタートし(WOW plus)、10月からはドラァグレースUK、そのあとにはオールスターズ5とS12も控えていることが発表になって楽しみが尽きません。

これだけ次が控えているとなると、新たに追いかけはじめるのにも絶好の機会だと思うんですよね。
はまる気で行くならS1から見るのがおすすめですが、まだわからないな…というときは気になるクィーンがいるシーズンから見るのも良いと思います。
好み別のおすすめはこんな感じでしょうか(注:あくまでも私の印象です)

ネタばれは避けたい→S1(&ウィキペディアを見ない(いきなり優勝者の写真が出ます))
ファッションチャレンジがたくさんみたい→S3、S7、S10
まずは(比較的)穏やかなシーズンが見たい→S8、(S4)
むしろバトルが見たい→S2、S3、S5
キャラが濃いシーズンが見たい→S5、S6、S9

私の好きなクィーン紹介はこちらに書いています(ネタバレなし)ichinics.hatenadiary.com


そんなわけで、UKが始まる前にS5まで書いて放置していたシーズンごとの感想の続きを書いておきたいと思います。

S1から5までの感想はこちら
ichinics.hatenadiary.com


優勝者についてのネタばれは避けますが、それ以外の内容には触れるのでご注意ください…!


2チーム制でスタートした才能の宝庫「Season6」

「歌」「コメディ」「ダンス」「ファッション」「リップシンク」など、確固とした得意分野を持つクィーンが多く、その才能を発揮できる企画がちゃんと用意されているので、見所が多く楽しいシーズンです。
数々のRPDR流行語も生み出した回。
RPDR定番企画の中では、元ネタを知らないとわかりづらいと思われる(そして日本で暮らしていると知らない場合が多い)スナッチゲーム回(ep5)もS6は格別に面白かった。特にベンデラの、シトロン、の言い方、真似したくなります…!
そして、最初は引っ込み事案で言い訳ばかりしていたトリニティKが、ビアンカとのやりとりを通して確変する場面(ep7〜8あたり)はRPDRを見てきた中でも特に好きな場面のひとつ。自信が人を変えるんだなと感じた瞬間でした。登場回(ep2)を見直すと、ビアンカと2人きりになってめちゃくちゃきまずそうに「クール…」しか言えなかったトリニティKがとても味わい深いです。
歌うまクィーンの対決も熱いし、コメディクィーンの躍進も楽しい。一方で、精神的に不安定なクィーンの不器用さが愛おしく切ない場面もありました。
ちなみにS6は全14人の出場者を7人ずつに分けて第1回を行うという、2チーム制が初めて採用された回でもあります。視聴者としては登場人物を覚えやすくてわりとよかったのですが、一方で序盤から派閥的なものができてしまう原因にもなっていました。そのせいかはわかりませんが、これ以降2チームスタートはなし。

グランジ・クィーン、アドレの成長もS6の見どころ!www.instagram.com


若手の躍進が目立つSeason7

私がRPDRを見るきっかけにもなったヴァイオレット・チャチキが登場するシーズンです。
なのでヴァイオレットに注目する気満々で見始めたのですが、第1話からこれはちょっと、注目するまでもなくずば抜けている(特にファッションセンスが)と感じました。
しかしS7の恐ろしいところは、そんな風に飛び抜けた存在が1人だけではないというところ。
特に好きなのはミス・ギャップ萌えのミス・フェイム。クールビューティな美貌ながら、過去養鶏の仕事をしていたことから鶏が大好きで鶏の鳴き真似がうまく鶏のタトゥーをいれているというギャップが愛しい…。
そしてロシア語ネタ&ジムナスティックを得意とするカティアも愛さずにはいられないクィーンでした。途中、ストレスのかかった状況でカティアがフェイムを頼るシーンはとてもグッときました。
また、周囲に「生意気」だと遠巻きにされていたヴァイオレットが、パートナーを選べる権利を得た時に真っ先にカティアを指名したのもよかった。当初は戸惑っていた(ように見えた)カティアも「話してみたら意外といい子だった」みたいに言って、そこから関係性が変わっていくとかね…こういうのがドラァグレース の面白いところです。カティアとヴァイオレットが組むことになる「ハーフドラァグ」のチャレンジは全シーズン通して一番好きだったチャレンジです。
ヴァイオレットは確かに生意気なところもあるんですが、22歳(出場できる最低年齢が21)で出場して、周囲に煽られたりしても意に介さず我が道を突き進む姿はひたすらかっこよかったです。それでいてカティアにはなんか懐いてて、カティアがリップシンクする回、後ろで「Go through it!」って叫んでるのもかわいかった…。
そして、”ドラァグ”というものに対する捉え方に新しい視点を与えてくれたパールの言葉も忘れられません。「幼い頃は紙にパールの絵を描いていた。そしてある日、それを自分の顔に描いてみたら、私がパールになったの」。
S6のベンデラも鬱病を患い、一方で躁的なキャラクターとして”デラ”を作り上げたと語っていました。パールのこの話も、それに近いものなのかもしれない。自分の最大の理解者となる存在を自分で作り上げる。だからこそ彼らはドラァグの自分を決して否定しないのだろうと思います。

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ヴァイオレット・チャチキ


ついに100話に到達! 1話目から豪華なSeason8!

1話目が100話記念ということで、ファーストチャレンジは過去8シーズンの優勝クィーンとのフォトセッションという豪華さ…!(1人だけ来れなかった人がいるんだけど後日でてきます)
ここにいる優勝クィーンたちも、1話目にはこんな風に初々しかったんだよな…とか思ってしみじみします。
S8も個性の強い人が多いので一見衝突しそうなんですが、実際はこれまでのシーズンでもトップクラスに平和なシーズン。
一見ヴィランキャラみたいに振る舞うアシッドベティが実はめちゃくちゃ情に厚い人だというのがわかるのも良いし、ウォーキングやダンスが得意ではない(けれどファッションセンスはずば抜けている)キム・チーをないがしろにせず、基本的に皆でサポートするのも良い(これはキムが優しい性格だというのもあると思いますが)。
特に好きだったのは、ワークルームで自らの貧しい生い立ちについて語ったチチ。お金がないから衣装にお金がかけられない、と語りつつ、それを言い訳にせずガッツを見せるのが熱い。煽られる場面もあるけど、簡単に喧嘩を買わない努力家です。
特に印象的だったのはep7のリップシンクドリームガールズから「And I Am Telling You I'm Not Going」)。魂のこもったリップシンクで、今見直しても涙ぐんでしまう。途中のアクシデントすら、まるで演出のようにドラマチックでした。最後に対戦相手のソージーがチチの手を掲げるところまで、最高の最高でした。


個性の対決Season9

これまでのシーズンには出てこなかったタイプのクィーンが大勢出てきたシーズン。
ドラァグ歴は10か月(!)ながら圧倒的な美貌と個性的な性格で頭一つ抜け出るヴァレンティーナに、これまでのビッグガールの中でも格別のファッションセンスを持つ、ユリーカ。クリスティーナ・アギレラ似のかわいいファラ・モウンに、洗練された都会的なドラァグを見せるサーシャ。格別なファッションセンスを見せるシア・クーリーに、抜群に個性的なのになぜかとてもネガティブなニナ・ボニーナ・ブラウン、ガッツのあるお姉さんトリニティ・テイラー……などなど、個性が際立っている人が多い。
それでいて、大人なクィーンが多いため、ワークルームは基本的には平和。
収録されたのがおそらくオーランド銃乱射事件(ゲイクラブでの銃乱射事件)の直後で、ワークルームで事件についての話題になった時に「自分も出演するはずだったが別の用があってキャンセルをした」というクィーンもいました。「その日は自分を見るつもりで友達が来てくれていた。「オーケーまた今度、今日は楽しんで帰るよ」っていうメールが最後だった、という話などは、彼らもそのような差別や危険と背中合わせにいることの証左でありとても辛い。改めてこの番組の意義を感じた瞬間でした。
このS9からファイナルがリップシンク対決になるのですが、これが本当にすごかった。これから見る方はどうかネタバレ見ずにファイナルにたどり着いてください…!


ファッション対決が楽しいS10

原点回帰でファッションチャレンジの多いシーズンだったように思います。才能に溢れたクィーンが多くどのチャレンジもレベルが高く、最後まで誰が優勝するのかわからないシーズンでした(でも終わってみれば大納得)。
才能溢れる若手のアクアリアと、面倒見が良く裁縫の得意なエイジア、スマートで工夫を凝らしたドラァグが魅力のミズ・クラッカー、物静かながらリップシンク強者で筋肉クィーンのキャメロンなど好きなクィーンがたくさんいたシーズン。
特に面白かったのはドラァグコンでのパネル討論会チャレンジ。ここで「プロポーショナイズ」という言葉を生み出したユリーカは天才だなと思いました。S9では怪我のためにリタイアしS10でカムバックを果たしたのですが、ユリーカはメイクもうまい、演技もうまい、プラスサイズクィーンの中では圧倒的にボディメイクがうまいという才能にあふれたクィーンだと思うので、カムバックしてくれて嬉しかったです。
それからep11の、明るく輝いている自分と、自分のネガティブさを表現した2タイプのドラァグを見せるEvil twinsチャレンジも良かった。自分の悪い側面を表現するって厳しいことだと思うんですけど皆素晴らしくハイレベルな戦いだったと思う。でも個人的にはアクアリアとエイジアのツインズが好きでした。wow+にはいったので、近いうちにuntuckedと合わせて見返したいです。

www.instagram.com
プロポーショナイズの達人・ユリーカ


初めてリアルタイムで追いかけたS11

私が初めてリアルタイムで視聴できたシーズンです(字幕付きは1週遅れだったので、WOWで見てからネットフリックスを見ていました)。
また、この回からuntucked(バックルーム映像)も字幕付きで配信開始したため、かなり色々ないざこざがuntuckedにはあることも知りましたが、直後のドラァグコンで皆が仲良くしている様子が見れて、結果全員大好きになりました。RPDRはほんと、シーズン後のやりとりとか見ているうちに最終的にみんな好きになるんですよね…。
そして初めてリアルタイムで追いかけて改めて感じたのは、私はやっぱり本気で「america's next drag superstar」を狙ってるタイプが好きだということです。S11で言えば、ブルック・リン・ハイツと、アケリアと、イヴィは最初から「america's next drag superstar」しか見ていないように感じるクィーンでした。そして私は最終的に、不器用に孤軍奮闘していたイヴィを応援していました。
S11の良心ことニナ&シュガケインも良かったな~。手品チャレンジのニナは最高。そして見終えた後にS3ep1のオーディションテープ回にニナを発見して、こんな昔からオーディション受けてたんだな…とジーンと来たりしました。
S9から最終回がリップシンクになったのですが、見てる側としては、早くもネタが尽きてきたのでは…なんて感じていたところで、この決勝戦が繰り出されるのも最高。2人とも最高にかっこよかったです。
S12も本当に楽しみです!!!


いろいろ書きましたが、今の正直な気持ちとしては、その後の活躍とかオールスターとかWerq the worldとかSNS上のやりとりとかみてるうちに、みんな好きになってしまったな…!という感じです。
(登場シーズンでそんなに目立たなくてもASではめちゃくちゃ輝いてるクィーンもたくさんいるのでASも全部字幕配信してほしい…!)。

それぞれ譲れないプライドを持ってドラァグをしていて、そんな姿を見ていると、見ているこちら側も勇気付けられる。素敵なクィーンとたくさん出会わせてくれたドラァグレースに感謝です。
後日また、オールスターやwere the worldの感想も書きたいと思います!