頭の中のハサミ

あんまり考えたくないことが思い浮かんだときは指でハサミを作るのが子どもの頃からの癖だ。むかし「ゆかいな床屋さん」っておもちゃがあったけど、あんな風に頭から伸びてきた考えたくないこと線をハサミで頭から切り離すようなイメージ。いつからやりはじめたのかはよく覚えていないけど、でもこれがわりとうまくいく。指でさっくりと切り取って、その断面を見るようなイメージについて考えていると、だいたいバームクーヘンとかスイートポテトとかプリンのことに頭の中が切りかわる。たまに切りにくいアップルパイなどがでてくる場合もあるが、そういうときはきちんとナイフを出してくればいいだけのことだ。

考えたくないことというのは、例えばこわいことだ。1匹みつけたら○匹系の話とか、鏡が妙に気になるとか、口に出すのもためらうようなやつ。それから腹が立つこと。これは、ちゃんと考えた方がいいときもあるけど、通勤電車での一時的な腹立ちなどを引きずりたくないときに、ハサミはわりと役に立つ。
ただこのハサミは、恥ずかしいことにはなかなかきかない。もう十年以上前の告白シーンとか、若気の至り的なチャレンジ精神溢れる服装とか、勢いで知ったかぶりしてしまったとか、布団の上をゴロゴロ転がりたくなるような恥ずかしさは時を経てもなかなか「そんなこともあったね…」箱におさまってはくれず、自分が自分で恥ずかしい、というこの感覚の強さはなんなのだろうとしみじみ思う凪を乗り越えてなお第二波に飲まれながら、やっとのことで取り出したハサミを鎌首に突き刺し、息絶えたそれを丁寧に解体し、切り分け、串にさしてたき火で炙り、満点の星空のしたで舌鼓をうつ。

 「きのう何食べた?」7巻/よしながふみ

きのう何食べた?(7) (モーニング KC)

きのう何食べた?(7) (モーニング KC)

近頃はほとんどレシピ本を買うような気分で買い続けていたこのシリーズですか今回の1話からの2話にはちょっと不意打ちをくらって涙ぐんでしまいました。お母さんの気が晴れる理由とか、いろいろ語弊もあるんではと思ったりもしたけど、全方向に気を使うのではなくてこの2人のお話なんだからまあいいじゃないと思いました。よかった、って思った。
人にはいろいろ事情があるし、事情を詮索したがる人もいるし、生活するってすごいめんどくさいけどそれぞれにあった形を続けていければわりと幸せ、という当たり障りのないことを考えたりもしました。
自分はシロさんみたいにしっかりしてないんだけどシロさんが快適とする状態はわりと自分の好みに近いみたいで、このシリーズは読んでて落ち着きます。

 「いつかティファニーで朝食を」1巻/マキヒロチ

いつかティファニーで朝食を 1 (BUNCH COMICS)

いつかティファニーで朝食を 1 (BUNCH COMICS)

朝食観の違いがきっかけで同棲していた恋人と別れ、一人暮らしをはじめた主人公の、朝食をテーマにした連作短編集。
いつも朝はばたばたしてしまい、まともな朝食を食べているとはいいにくい自分には少々耳のいたいところもありますが、実際早起きしてゆっくり朝食を食べられた日というのはそれだけで充実感があるし、この本にでてくる朝食はどれもおいしそうで、いいなあと思いながら読みました。
元同級生の友人たちの視点になるお話もあるんだけど、まあ自分の身の回りと環境の近いキャラクターが多くて、あるある…と思うところも多々ありました。
ただ、せっかく朝食用のテーブルと椅子買ったりしてるのに、出てくる朝食はほとんど外食中心、っていうのはなんかもったいない気もする。あと会社の定時が早い自分には真似できないので、いいなあと思って読むしかないんだけど、食べ物漫画に多い実用的な側面よりも、人間模様に重心がある漫画なので、真似できない自分が読んでも十分楽しかったです。
続きも楽しみ。