忘れる

今日、テレビでまだ中年といえる年齢で認知症と診断された夫とその奥さんを取材したドキュメンタリーをやっていた。認知症とは痴呆の新呼称として決められた言葉らしい。記憶を出し入れする海馬という脳の一部分の神経が徐々に衰退していくという病気らしく、記憶する力が日に日に失われてしまう病気とのこと。番組内の説明では、まだはっきりとした治療法が開発されていない病気でもあると言っていた。
私には漠然とした知識しかないけれど、テレビを見ながら、とにかく忘れてしまうということはとても哀しいことだなと思った。一緒にいる人はもちろん、忘れてしまう本人の方もそうとうな不安と戦いながら日々を過ごしているのだろう。
番組内で、目に見えて記憶が失われて行く旦那さんが、子供の頃通った空手道場を覚えていた時の夫婦ふたりのうれしそうな顔と、そこが廃墟となっていたことで旦那さんが見せた寂しげな表情が印象に残った。

その映像を見ながらずっと考えていたのが、大島弓子さんの『ロストハウス』*1に収録されている「8月に生まれる子供」のこと。大学に入ったばかりという年齢で、日に日に記憶も身体も年老いていく病気におかされた種山びわ子という少女の物語だ。忘れてしまうということに対する主人公の恐怖と葛藤がリアルに伝わってくる作品であるとともに、その先にある希望まで提示してみせる。こういう描き方ができるのは大島弓子さんの特別だよなあと、しみじみ思う。
もちろん、現実と物語は別物なんだけれど、番組の最後に流れた旦那さんの作文に、私は、あのびわこの作文を読んだ時の様な「失われていく瞬間を繋ぐ唯一の真実」を感じた。