タイタンの妖女/カート・ヴォネガット・ジュニア

目からうろこです。すごく面白かったです。
ヴォネガットというと、訳者である浅倉久志さんとのコンビで村上春樹に影響を与えた〜、という文脈で語られることも多く、かつて春樹アディクトだった私もまたそういう情報の中からヴォネガット、という名前を覚えました。はじめてヴォネガットの作品を読んだのは高校生の頃、なんでそれを選んだのかは不明ですが「モンキー・ハウスへようこそ」でした。短編集なので、普通ならとっつきやすい作品のはずなんですが、今思うとこれの場合はヴォネガットの世界になじんだうえで読むべきだった作品のように思います。まあ、とにかく当時の私はいまいちその魅力を理解出来ないまま、途中で脱落してしまいました。
そしてそのまま私の中でヴォネガットは「読んでみたいけど手を付けにくい作家」だったんですが、この「タイタンの妖女」を読んで、目から鱗が落ちた気分です。やっと。
ただ、その面白さを説明するのはすごく難しい。
読みはじめはなんでもありの飛んだり跳ねたりな展開に戸惑っていたのですが、ストーリーに引っ張られて読み進めるうちに、私が読んでいる視界よりもさらに大きなスペースで物語は回転していたのだということに気付かされた。例えるなら、物語の中の世界はせいぜい日本くらいの範囲だろうと考えてたのに、実は宇宙の一部として捉えたうえで話がすすんでたという感じ。
そして、その「大いなる視点」があやつる運命に翻弄されながら生きるものの「滑稽さ」は、作者の愛情がこもった描写によってすばらしく輝いている。
私も、最後には登場人物すべてがいとおしく思えていた。感情的な話ではないからこそ、なんだか不思議な感覚だった。

「自分の存在の核心に対して、(略)本質そのものに対して、戦いを挑まなくちゃならなかったんだよ」

という台詞が特に印象に残る。
単純に面白く、しかし複雑な話。SFというジャンルを敬遠しがちな人にもぜひ読んでみて欲しい作品。
余談ですが、私はHALよりもこの「タイタンの妖女」にでてくるサロが好きだ。比べなくてもいいんだけど、つまり「2001年宇宙の旅」(映画版)を見た時よりも感動してしまったということです。

「さようなら、清らかで賢くてりっぱなみなさん」

といって宇宙船に乗り込むビアトリスも好きだ。
ちょっと本棚を探ったら「モンキー・ハウスへようこそ」も見つかったので、もう一度チャレンジしてみようと思います。