成長

今朝、ちょっと遅刻しそうだ、と思いながら家の前の路を早足で歩いていたら、なんだかすごく懐かしい人が居た。ガラス屋さんのおじさんだ。
小さい頃、私は携帯用のテレビが欲しくて、プラスチックの小さい容れ物をもっておじさんのとこへ行って、これをテレビにしてくれと頼んだことがあった。今から考えればその中身について思い付かない自分を笑いたくなるけども、その時のおじさんは「無理だよ」などとは言わずに、さっときれいにガラスをカットして、プラスチックの容器にはめてくれたのだった。
もちろんそこには何も映らなかったけど、べつに気にならなかった。私はその四角くて分厚いガラスだけで、充分嬉しかったのだ。そしてその後ずっと、そのガラス板は私の宝物箱に入っていた。ちなみにその宝物箱は図工の時間に作ったやつで、開くとムーンリバーが流れる仕組みになっていたけど、あっというまに鳴らなくなった。多分電池が切れたんだと思うけど、それはそれで良い。ともかく、その嬉しかったことを思いだして、私は、ちょっと立ち止まり、目の前で車に大きなガラスを積んでいるおじさんを目で追った。
ずいぶんと久しぶりにその姿を見たけど、おじさんはきっと私のことなんて覚えてないだろうな、なんて考えながら通り過ぎようとしたときに、ふと、そのおじさんが私の記憶の中のおじさんとほとんどかわらないことに気が付いた。そういえば髪も黒い。
つまりその人は、おじさんの息子さんなんだろうと思われた。小さい頃、なんどか見かけたことがあるはずのその男の人は、確かぜんぜんおじさん似ではなかったはずなんだけど、私の知らないところでいつの間にかおじさんそっくりに成長していたのだろう。
人って不思議だなあと思うとともに、私もいつか、自分の父親とか母親とかと見間違えられるほどに似たりするんだろうか、と考えて、ちょっといやだなあと感じたけれど、その頃になったら、「いつぞやはお父さまに親切にしていただいて」と世間話をすることもできるんじゃないかと思った。