うそ記憶

数年前、ふらっと1人旅をしたことがある。なんの計画も無いうきうきわくわくした感じもない、ただたんに唐突にという1人旅。しかもへたれだから三日前くらいにきちんと飛行機とホテルとって、しかも1泊2日というなんだかビジネスコースみたいな旅。(実際とったチケットもビジネスパックだった)その行き先に選んだのは福岡。なんで福岡かっていうのには、まあ大人の事情ってのがあったのですが、ともかく出かけたわけです。
その時のことを今日ふと思いだして、なんで思いだしたかっていうとその時福岡で買ったジーンズを捨てようと思ったからなのですが、そういえば、私はこれを福岡2日目に買ったんでしたよ。あれ?
ここでなんであれっと思うかと言うと、福岡1日めにはちょっと嫌なことがあって、私は落ち込んでいたわけです。なんかさみしくなって、友達に電話しようかと思ったけど止めて、外をふらふらしてみたけど、あまりにも知らない町すぎてこわくて、なんというか道路の広さとか建物の感じとかが、外国にいるよりずっと「知らない」感じに覆われていて、ご飯食べようと思って入った店では「もう閉店ですから」と断られ、すごいへこんだ気持ちで、でもやっぱ九州まできたんだからと思って1人でラーメンの屋台に入ったんです。
「ビールとラーメンください」と極力なんでもない感じを装ってオーダーし、ちょっと周囲を見回してみると、皆さん陽気に飲んでらっしゃる。いいね、なんかたのしそうね。そんな風に思ってた私の目の前にどん、と置かれたのは瓶ビール。私は炭酸が苦手なので、ビール好きだけど1人で瓶一本飲むのには結構時間がかかる。でも屋台は満員。どうしようーと思いつつラーメンをすすり、食べ終えた時にもまだビールは半分くらい残っていた。
そこで私は隣のたのしそうなグループにビールの残っている瓶をもらってもらい、それを切欠に「おねえちゃん東京から?」みたいな感じで少し世間話とかして、楽しい気分になって「福岡いいひとばっかりだったよー」みたいな気分で東京に帰ってきた。ような気がしてた。
でもたぶんそれは違う。私はふつうにビールを残し、屋台を出て、ホテルに帰り、へこんだ気分のまま眠り、こんな1人旅じゃあむくわれないと思って翌日は買い物をして、そのジーンズを買ったというのがほんとだろう。でもそんな情けない話じゃ面白くないので、屋台でビールで異文化コミュニケーションみたいなうそ記憶に塗り替えちゃったんだろう。そうだったら良かったのにな、と思ってたので思い込んじゃったんだろう。記憶って勝手だな。
そんなことを思いだして、そうだったら良かったのになを実行すれば良かったのになと思った。それができなかったのはたぶん、その日にあった「ちょっと嫌なこと」が原因だったのですが、初めての1人旅だったんだから、もっと楽しめば良かったなといまさら思いました。思えば遠くへ来たもんだ。って誰の台詞なんだろ。