ロゼッタ

ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟監督作品
本年度のカンヌ国際映画祭でも「ある子供」でパルムドールを受賞した、ダルデンヌ兄弟の99年度作品であり、パルムドール&主演女優賞受賞作。

ロゼッタ [DVD]

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主人公の少女ロゼッタアルコール中毒の母とともにオートキャンプ場に暮らしている。とても貧しく、生活は逼迫しているが、彼女は不器用ばがらも自らの力で生きようとする。しかし仕事がない。社会は理不尽なまま、ロゼッタの足枷は重くなる一方だ。
この映画には音楽もなければ説明的な台詞も無い。手持ちのカメラは少女の背後にぴったりと寄り添い、彼女の息づかいや表情を丁寧に、そしてドライに写し取っていく。ドキュメンタリー出身の監督らしい演出とも言えるけれど、これほどまでに説明しないのに伝わる、というのは、もうこの映画の中に何かがある、としか言い様が無い。
物陰からロゼッタが「見つめる」シーンがいくつかあるのだけど、常に何かに怒っているようなロゼッタが、ふと無防備になる、その表情は特に印象に残った。あちら側とこちら側の見えない境界線がそこにあり、ロゼッタにとって唯一の友人ともいえるリケは、その境界を軽々と越えてきた存在だったのかもしれない。そして、あの、リケの家で眠りにつくロゼッタが呟く台詞にはロゼッタのぎりぎりの心情が現われていたような気がする。
そして、それまで張りつめていた意志がほどけてなくなってしまいそうになる瞬間というのは、希望のあとにやってくる現実によって引き起こされるものなのかもしれない。
そのようなロゼッタの気持ちの揺れを感じるのには、あのカメラの位置が重要だったのだと思う。それがあまりにもリアルに響いてくるからこそ、この映画について何か言うのは難しいんだろうなと思った。
しんとした気持ちになる映画。