沖で待つ/絲山秋子

今日お昼ごはん買いにいくついでに書店で買って、帰りの電車の中で読了できずそのまま喫茶店に寄って読了。

沖で待つ

沖で待つ

絲山さんの作品はまだ全部読んでいなくて、作風が前のに比べて云々、ということは言いにくいのだけど、この本に収録されている2本のうち「勤労感謝の日」の方は、内容はともかく、ジュブナイル風の文体というか会話文と悪態を中心に展開されていく感じが、何かこう、インターネットっぽい、とその由縁がよくわからない感想を持った。ラストはいいなと思ったけども、舞台の一つとして出てくる渋谷の職安に私も行ったことがあって、この主人公の視線の先にいたかもしれない自分のことを考えると、ぞっとしない、とか思う。つまりそのくらい、フィクションというよりプライベートな文章に思えてしまって居心地が悪かった。
しかし「沖で待つ」は、これまた全く異なるアプローチで描かれてる短編で、童話のような語り口が冒頭の軽いパンチ*1と相まって、その世界に引き込む力を持っていたように思う。
物語は主人公の会社の同期だった「太っちゃん」との「約束」を描いたものだ。

「(略)だって、そういう人は何でも知りたがるから。でもおまえだったら見ないって約束したら見ないでいてくれるような気がするのさ」(p78)

ここでの「そういう人」とは、自分と恋愛関係にある人ということだ。あああ、そうかもしれないなぁと思う。見ないと言うことが無関心なのでもなく、見てしまうということが傲慢なのでもなく、そういう関係性というのは、あると思う。
同じものを支えている感じと、お互いに支えているものを見ている感じというのかな。っていうのを風景であらわすと、p107で書かれているイメージなんだろうなと思った。そして、その視線の距離こそが、この物語における最初と最後のシーンに自然さを与えているような気がする。

*1:帯文読まないで読んだので