ブロークバック・マウンテン

監督:アン・リー

ゴールデングローブ賞アカデミー賞などを筆頭に、数々の賞を獲得した作品。キーワードページを見るとそのすごさがわかる。
けれど、個人的には、それほどの威力を感じられませんでした。
同性愛を描いた映画、ということばかりが取りざたされているような気がするけど、去年みた「バッド・エデュケーション*1だって「キンセイ・レポート」*2だって「メゾン・ド・ヒミコ*3だって、同性愛を描いた作品であったわけだけども、そのどれにもあったのに、これにはないものがあったような気がする。それはたぶん、私にも共感できる切欠のようなものだと思う。映画はたしか1963年から20年間の物語だったと思うけども、その当時のアメリカにおける社会状況などはわからないものの、その3分の1くらいは私も体験した時代なはずなのに、全然ピンとこないのは日本人だからなのか、無知なのか、多分両方か。

(以下、内容に触れています)

まずこの映画の中でも何度も回想されるブロークバック・マウンテンでの日々の描き方が、あまりにもあらすじ的に感じられた。風景の美しさは印象に残るけども、正直、二人がどの瞬間を切欠に好意をもったのかすら、よくわからない。例えば、あのイニスが酔っぱらった日の夜は、大事なターニングポイントなはずなのに、彼が何故酔っぱらったのかってことが、よくわからない。
それでもまあ、別れが辛いものだったんだろうということはわかる。
その後、彼等はそれぞれ結婚して家庭を持つ。子供も産まれる。だが不満が募る。
そこでの女性の描かれ方は、非常に現実的で、男性を生活の為に「捕らえる」存在のように映った。ここで女性に感情移入してしまうのは私が女性だからなんだと思うけれど、それにしても、あの仕事場で子供を預ける場面とか、イニスの行動は、彼は主人公なのにもかかわらず、言い訳とか理由の部分があまり描かれていないので戸惑うとこが多かった。
それでも、メインの二人のうち、感情を素直に表すジャックには好感を持った。いかんせん性欲重視だなとは思ったけれど、その辺りは上に挙げた映画で感じた違和感と同じで、ラストでそれだけではないところが、きちんと補完される。
だけど、彼等がお互いに、何故お互いでなければならないのか、という根幹がわからない。一緒にいて、自然でいられるということなんだろうなとは思う。でもそれほどに必要な相手なのにも関わらず、彼等はお互いの妻には嫉妬しない。そのくせメキシコに行ったというジャックにキレるイニス…。この辺は、風俗は浮気か浮気じゃないかとかいう話と同じだと思った。でも奥さんは「無い」ことにしてるのが、何かなと思う。愛情がないなら別れればいいのになと思ってしまうのだけど、それは出来ない時代だったんだろうか?
私が悲しいなと思ったのは、結局最後まで、イニスは誰にも本音を明かさないというところだ。別れた妻に問いつめられる場面にしても、彼は最後まで取り繕うことを考えている。ジャックとの生活を選べなかった理由として子供を挙げたくせに、娘にすら本音をあかさない、自分の領域に立ち入らせない。そして、それらのものを捨ててまで、ジャックを選ぼうとしなかった、そのこともわからない。社会がそれを許さないから? それにしては、そのトラウマに当たる部分の描写が弱すぎる気がする。
そういった全てのわからなさは、やはりブロークバック・マウンテンでの日々の描き方が不足していたからなんじゃないかと思いました。でもなんか被害妄想的なことを言えば、それも全部、お前にはわからないよ、と言われているような気もちょっとして、もやもやする映画でした。