帰り道と断片とBGM

会社を出て駅に向かう途中、横断歩道を渡る時に、タクシーを運転しているおじいさんと目が合った。人と目が合うと、ちょっとだけ時間がとまった感じがするんだけど、その時もそのまま立ち止まって、i-podのイヤホンを耳に突っ込んだ。LとRはきちんと確認。おっけい。「KU〜KI」が流れる中を歩いて改札を通り、銀色の電車に乗り込むと、透き通って見える、窓の外は真っ暗。乗換えの駅に降りると、youとyeahを重ねてる感じが若いとかまで考えてた妄想が中断されて、雑踏を歩く不自由さに意識が音から離れる。雑踏を歩いているときは、いつも向かいから自分が歩いてくるような気分になって歩きにくい、けど、乗り換えの改札でタイミングよく「サマー記念日」のチャッチャチャッという手拍子が流れて救われた気分になる。そう、なにもかもそろってる。足取りも軽く再び電車に乗り込んで本を開いて、読みかけだった「ナポリ」の話に戻る。きゅうにスパゲッティが食べたくなる。ヤングコーンの入ったアーリオオーリオ。あれはどこで食べたんだっけ。ああそうだ、今日はビールでも買ってかえろう、そんでビール飲みながらビデオでも見よう、頭の中がサァーっとするあの感じ、なんて「自問自答」で、ちょっと頭がサァーっとなる。でも、ナポリの次の話は訳者と相性があわないのか、いきなり読みにくくつっかえてしまい、同時にちょっと嫌なこと思い出したら「オーライ」と声がして「どっかにいこー」が始まった。どっかいにいこーと言いつつ着いたのは最寄り駅なんだけど、家までの道を歩く途中には、桜の大木が2本あって、ひと方はとにかく枝を広く傘のように広げていて包容力のあるタイプで、もうひと方はとにかく上へ上へという向上心のあるタイプなのだった。なんて思ったのは今日が初めてだけど、同じソメイヨシノで年の頃も同じくらいなのに、全くタイプが違うのが面白い。「砂漠に咲いた花」が流れて、ああもうすぐキセルのライブだ、と携帯のスケジュールを確認する。ゆるされるように、黒い空の前を白い花びらが飛んでく。光ってるみたいでしんとする。着地点はねぇ、と言うのは何回聞いてもぐっとくる「KIMOCHI」。そう、それで、あの唯一性の話。重なることはないけど、内側から描き出された輪郭に、外側から触れることでその内側を思い描ける、ということはやっぱあるかもしれないとか思う。なんのことやらだけど、興味がある。なんでだろう、なんて考えていたらいつの間にかコンビニで、おじさんにあんまんをもらった。ごちそうさま。そんで言葉があふれでた帰り道も終る頃、流れてたのは「thankyou for the music」だった。ありがとう音楽。