どんがらがん/アヴラム・デイヴィッドスン

なんだか不思議な本だった。編者の殊能将之さんの解説にあった「変な小説」という表現がぴったり、だと思う。

この短編集は、後半少々前後するものの大まかには書かれた年代順に並んでいて、全体の流れが「だんだん変になっていく」というように並べられているような気がした。
「ゴーレム」から「クィーン・エステル、おうちはどこさ?」くらいまでは非常によくできた、精緻でスマートな短編小説という印象なのだけど「尾をつながれた王様」あたりからちょっと混沌としてきて、「ナポリ」あたりからはまさに奇想というか、文章自体が、かなり集中しないと読めない複雑なものだったと思う。
それでも、後半もまた苦労する甲斐はある、とても印象に残る本だった。
全部で16編の短編小説が収録されているのだけど、なんだかいろんな色がごちゃまぜになっている感じで、これを全て同じ人が書いているというのには驚かされる。ただ、全体的に結末で驚かせるというよりは、その描写、語り口で読ませるタイプなのかもなと思う作品が多かったです。
以下気に入ったのを少しメモ

「さもなくば海は牡蠣でいっぱいに」

ラストがかなりの衝撃、というかどんでん返しに思えたのだけど、冒頭を読み返したら、伏線ではなかったみたいなのでこれは著者(及び訳者)の意図したミスリードではないのかもしれない…。けどそこのとこ抜きにしても面白かった。

「ラホール駐屯地での出来事」/「眺めのいい静かな部屋」

この二編はどちらも戦争の思いでが鍵になっているのだけど、著者のキャラクター描写が際立っているという点でも近いものがあるように思った。

「そして赤い薔薇一輪を忘れずに」/「ナポリ

その幻想的な情景描写にどことなくボルヘスを思いだす二編。特に「ナポリ」の饒舌さが好みでした。