やわらかい生活

ichinics2006-06-22
監督:廣木隆一 原作:絲山秋子
廣木隆一監督の作品では、この作品と同じく、寺島しのぶ主演の「ヴァイブレータ」が良かったので、結構期待して見に行った。そして、期待どおり、良い作品でした。
本当は原作読んでから、と思っていたのだけど、なかなか書店においてなくて(まあアマゾンで買えばいいんだけど)結局未読のまま見にいってしまった。でも、絲山さんの作品にある感触と、わりと地続きで見られる映画だったように思うし、それは「ヴァイブレータ」を見た時にも赤坂さんの雰囲気に近い、と思ったのでこの監督は原作の空気を画面へ取り出すのがうまい人なのかもしれない。見ているうちに、これはもしかしたら、短編連作だったのかな、と思ったけど、それは読むまでの楽しみにとっておくことにしよう。【読んだ→id:ichinics:20060623:p1】


物語の主人公、橘優子は、両親と友人を失ったことをきっかけに躁鬱病をわずらい、遺産で細々と「好きなことだけして」暮らしている。デジカメで写真をとって、銭湯へ行って、トマトジュースを飲んで、絵を描いて、眠る。時々人に会って、気持ちがざわざわして嘘をついたりもして。優子は人の気持ちに敏感な人のだと思う。だからこそ、何気ない言葉に傷付いたりする反面、他人をただ受け入れることができる。
物語の主軸となるのは、従兄弟である祥一との関係。彼は離婚寸前の家庭を放り出して東京へ出てきて、優子の部屋に居候するのだけど、鬱になった彼女をしんぼう強く看病する場面が、なんというか自然で良かった。この役は豊川悦司さんで、私は中学生の頃から豊川さんが大好きなのですが、かといって全作品を見るほど大好きというわけでもないんですけど、この役はかなりのはまり役だったと思います(『LOVE LETTER』や『顔』での雰囲気に近いと思う)。カラオケで尾崎豊を熱唱する姿や、女ものの寝間着から伸びる有り余る長い手足や、いんちきくさい方言や、全てがなんだかいい感じ。そして豊川さんは阿部サダヲさんに似ているなぁとしみじみ思いました。
ストーリーに関する感想は原作を読んでからにしようかなと思うのだけど、ひとつだけ気になったことは、これを見る人は優子をどう思うのだろう、ということだった。
優子が送る生活は、社会から離れた、いわば休憩のようなものだ。そしてそれは、人生として正しい、と私は思う。しかし、女性が年をとりながら、社会を離れ、一人で暮らす、ということは、わりと難しく、しかも批判されがちなような気もして、でもそれは男性もそうなのかもしれないけど、すみませんがんばれません、というときもあるわけで、なんというか、社会ってめんどくさいなぁとか、そんなことを考えたりした。

むかしむかし、あるところにうどんという名前の金魚とそばという名前の金魚がおりました。二匹はそれとなくしあわせに暮らしました。……おしまい。

という台詞が、いいなぁと思った。それとなさ。