昨日kissheeさんに教えていただいて文庫本コーナーを見たらばしっかりありました。で、とりあえず『イッツ・オンリー・トーク』のみ読了して、昨日の映画の感想(id:ichinics:20060622p1)を書き直そうと思った。
というのも、あの映画は、原作とは全く違うものだったのだと思ったからだ。それでも、絲山さんの雰囲気と地続きに思えたことを否定するのではない。
例えば『逃亡くそたわけ』での花ちゃん、『ニート』に登場するキミと、『イッツ・オンリー・トーク』での祥一は、ほとんど同一人物に思える。そして彼等と対をなす主人公の立場は、優子のイメージに集約される。
小説での優子は、しっかりしている。貯金暮らしではあるが、やりたいことはちゃんとあり、自分で選択もしている。いとこの祥一の面倒を見て、してほしいことをしてほしいという。
しかし、映画の優子は揺れている。休息を必要としていて、ただ誰かにそばにいてもらうことを求めている。たぶん、映画での優子を見る目線は、監督のものでもあり、脚本家のものでもあったのだろう。物語はかなりアレンジを加えられているけれど、それも絲山さんの複数の作品を読んだ上でのことだったのだなというのが、これを読んだ後だとよく分かる。そして、その目線を委ねられていたキャラクターが祥一だったのだろうかと思う。彼のキャラクターは、原作のものとかなりかけ離れていて、むしろ原作での優子の要素と、例えば『袋小路の男』での小田切と、両方の要素を持っていると思った。だらしないけれど、優しい。
そんな優しさが、小説にもちゃんと含まれているのだけど、それを拾い集めて、それが頼りになることを見せる。そんな映画だったのだと思いました。
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