自虐の詩/業田良家

最初に読んだのは大学生の頃で、読んでる間中、なんだかひどく暗い気分だったのを覚えてる。これに選んだときも「好きじゃないけど」なんて書いてるくらい、確かに面白いんだけどもやもやした気分になる感じは「ダンサーインザダーク」や「嫌われ松子の一生」を見た時のあれに似てる。そういえば不幸をコメディで、という構図なんてまんま映画版「嫌われ松子の一生」じゃないか、と思って読み返してみた。

自虐の詩 (上) (竹書房文庫ギャグ・ザ・ベスト)

自虐の詩 (上) (竹書房文庫ギャグ・ザ・ベスト)

そうしたら全然印象が違ったのだ。こちらを落ち込ませるような、どうしようもない不幸は「自虐の詩」にはない。いったい私は何を読んでいたのだろうって逆に凹むくらい、ぐっときた。
この物語は、周りから見たら「不幸」にしか見えない主人公の生活描写を丹念に積み重ねていくことで、読者の視線を変化させる。
自虐の詩」主人公の幸江は旦那イサオを愛している。働かないし、すぐ怒るし、怒ると机を引っくり返すし、酒とギャンブルが大好きで、周囲の人はみんな「別れろ」というが、幸江はイサオといられて幸せだ、と言う。読んでいる方が「なんで?」と思うようなことがあっても、幸江はつくし続けるので若干いらいらしてきたりもするのだけど、1巻の最後あたりから、現代と平行して幸江の過去が綴られるようになると、物語の奥行きもぐんと増して面白くなる。
そして最後にはイサオに巡り会って良かったなー、と思う。幸江の良いとこも汚いところも見てはじめて、彼女の魅力が見えてくる。

幸や不幸はもういい
どちらにも等しく価値がある
人生には明らかに
意味がある
自虐の詩」2巻/p279

不幸とか幸せなんてのは、ほんとに一面でしかなくて、二巻分幸江と向き合ってみてはじめて、彼女は不幸かもしれないが、同時に素晴らしく幸せでもあるんだということが、それは両立するんだってことが見える。そして、それこそ映画「嫌われ松子の一生」が試みて、失敗したことじゃないかと思う。不幸を笑い飛ばすのは、やっぱり主人公自身がやることなのだ。
この視点ががらりとかわる感じを、ぜひ読んで味わってみて欲しいなと思います。何度となく繰り返される、イサオがテーブルを引っくり返す場面すら、最後は微笑ましく見えてしまうんだから。

自虐の詩 (下) (竹書房文庫ギャグ・ザ・ベスト)

自虐の詩 (下) (竹書房文庫ギャグ・ザ・ベスト)