赤い文化住宅の初子/松田洋子

赤い文化住宅の初子 (F×COMICS)

赤い文化住宅の初子 (F×COMICS)

少女、初子の物語。映画化されるそうです。
帯には吉田戦車さんの言葉として「ヒロインの半端ではない幸薄さとささやか極まりない希望」と書いてある。確かにそうなんだけど、なんかちょっとつかえるものがあった。
この漫画は、松田さんの作品でははじめてかもしれない、わりとシリアスな描かれ方をしている。物語に説得力もあるし、広島弁で語られる台詞もとてもいい。
ただ「幸薄さ」や「不幸」と評される物語を読む時に、あらかじめ期待してるのはやはり「希望」ではなくてまずは「不幸」だなってところに、自分の中の悪趣味というかいじわるさを感じてしまうわけですが、その「不幸」に共感/驚くできるかどうかって点は、作品中の「笑い」がわかるとかわからないとか、そういうことと同じように、物語を楽しむ上で必要としてる部分だったりする。
ただ、この物語の重大な仕掛けなのか、それともたまたまなのかわからないのですが、表紙に描かれてる女の子と、主人公は同一人物であるはずなのに、全く印象が違う。
表紙の女の子は、遠い目をしてるけど、意志が強そうで、だから私はこの子がサバイブする話なんだと思って読みはじめたんだけど、初子は基本的には終始受け身で弱く、幸薄いというよりは「薄幸の少女」で、松田洋子さん独特の、自虐的なつっこみの視点がすぽんと抜けているというか、なんというか、そこらへんがとても歯がゆく共感するのが難しかった。ただ、「赤毛のアン」について妄想するくだりで見せる価値転倒は、決して美しくはないけれど、力強く、初子のあの部分をもっとクローズアップしてくれたらよかったのにと思った。
個人的にはむしろ兄のほうが切なく思えてしまう。兄側の話もあったらよかったのにな。
併せて収録されている「PAINT IT BLUE」は1998年から99年にかけてモーニング増刊に連載されてていた作品で、松田洋子節全開というかんじでよかった。