となり町戦争/三崎亜紀

となり町戦争

となり町戦争

となり町との戦争がはじまる。
僕がそれを知ったのは、毎月一日と十五日に発行され、一日遅れでアパートの郵便受けに入れられている〔広報まいさか〕でだった。

という書き出しではじまる物語。
この冒頭で既に現れているように、戦争がお役所仕事としてこなされる様はシュールで、最初は「本当は戦争なんておこっていないんじゃないの?」と思いながら読んでいた。しかし、それは「見えない戦争」が実際に起こっている湾岸戦争以降の今を意識して描かれた物語だからこその設定なのだろう。
その設定自体は興味深いのだけど、私はこのとなり町戦争に最後まで戦争を感じられなかった。それは自分が傷を負うまで戦争に巻き込まれていることを理解できないという現実への物語だからなのかもしれないし、そもそも「感じられない」ということこそを描いているのかもしれないけれど、実際にいなくなった人がいるのにも関わらず、その存在感はうっすらとしたまま、なのが寂しい。

それでも僕は、「僕の意志」として、「変わらぬ日常」を生きようと思う。誰かの死によっても変われなかった自分のままで生きようと思う。こうした、変わらぬ日常のその先にこそ、戦争は、そして人の死は、静かにその姿を現すのだから。p194

その姿を現すところまで、読みたかったと思う喪失感こそがこの物語の魅力、なのかもしれないけど。

ただひっかかるのは、ヒロインだ。終盤の「これは業務のうちじゃないよね?」という台詞に思わず吹いてしまった私はきっと夢がないんだろうなぁ。綾○かと思った。