少年少女漂流記 古屋×乙一×兎丸

小説すばる」に連載された、古屋兎丸乙一の合作漫画。

少年少女漂流記

少年少女漂流記

すごくよかった。これまで古屋さんの漫画は、どこか無機質なイメージがあったのですが、乙一さんとの会話から生まれていったというこの物語は、なんかこう、エモい*1
最後に収録されている対談で、

古屋 : 「中二病」って言葉があるじゃないですか。僕と乙一さんの共通点を挙げるとすると、そこなんじゃないかな。
(略)
乙一 : あの頃のようなちょっと馬鹿な。
古屋 : なんかこう、満たされない思いを妄想で補っているような。
乙一 : なんか自意識過剰みたいなね。ハタから見たらちょっとイタイんだけど、本人はすごい必死な感じというか。
古屋 : 僕も乙一さんもたぶんそういうものを引きずっているというか、そういう主人公を描くのが好きだという共通点がある。

という発言があったんだけど、つまりどこかで思春期を抱えっぱなしでいる人には、ぐっとくる漫画なんじゃないかと思う。私はそうだった。渦中にいると、自分と比べ過ぎてしまうかもしれないけど、離れてしまうと、この漫画を読んでいる今と、あそこがちゃんと繋がってるのがわかる。ラストのまとめ方も、作者ふたりの立ち位置がきちんとあらわされていて、力強い。

物語は8人の少年少女の「妄想と現実」。コメディがあり友情があり片思いがあって、古屋兎丸乙一、という二人の作家の多面性を味わえる作品集でもある。
思春期における葛藤や肥大する自意識、というのは、特に漫画ではよく扱われてきた題材だと思うけれど、この「少年少女漂流記」は、ひとつひとつを取り出してみても独立した面白さがあるうえに、1冊でひとつの物語として読むからこそのカタルシスも用意されている。贅沢な構成だ。
読み終えてみると、自分もまた、自分の中の思春期と顔を見合わせていた。お互い苦い顔しつつ、どこかとても、頼もしい気分だと思っていた。面白かった。

*1:id:ichinics:20070223:p1