「鏖 みなごろし」/阿部和重:三宅乱丈

原作:阿部和重 漫画:三宅乱丈による書き下ろしコミック「鏖 みなごろし」と、さらにそのアンサー小説として書かれた阿部和重さんの「くるみ割り人形」という短編小説が、これまた書き下ろしで収録されている豪華な新刊。これ見た瞬間、すごいな! と思った。面白い企画だなぁ。やーほんと、三宅さんにはもっと売れてほしい、と常々思ってるし(今もちゃんと人気あると思うけど、もっと)、そして阿部さんの小説、久々に読んだけど面白かったし、意外な組み合わせに思えたけどしっくりきている。

鏖―みなごろし (IKKI COMICS)

鏖―みなごろし (IKKI COMICS)

「鏖 みなごろし」は、収録されている短編集のタイトルである『無情の世界』という語感がしっくりくるような短編だった。読んだの、というか私が阿部和重さんの小説をよく読んでいたのは、ずいぶん昔で、その当時知り合いだった某文芸誌の編集者に、鼻で笑われたの覚えてる。ということはきっとムカっときたんだろうけど、でもきっと今読んだ方が面白いだろうなとも思うし、阿部さんの立ち位置もかなりかわったように思う。描いてることはきっとそれほどかわってないんだと思うけど。
ともかく。この「鏖」を読んだときの、オンオフの唐突さというか、視界の色が反転するような感触が、三宅さんの絵柄、力強くてコミカルなんだけど、どこか生々しい絵柄に、よく似合っているなと思いました。「闇金ウシジマくん」の軽薄さと暗黒さの入り交じる感じと、三宅さんの「ペット」のサイケデリック感が一体になったようなお話。
せっかくなので読み返そうと思ったけど、ちょっと見当たらないのでまた後日。
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そして「くるみ割り人形」。読みはじめてすぐは、ちょっと読みにくいなぁと思いながらめくってたんだけど、「姫百合物語」という言葉がでてきたくらいでもう一度最初から読むことにしたら、リズムに乗れて最後まで一気に読んでしまった。たぶん、最初の違和感は、漢字だけゴシックになっているという凝ったレイアウトによるものだと思う。しかし、そのちょっとした違和感が、こう、この話の気味の悪さに彩りを添えているような気がする。
この短編小説は、「姫百合物語」を物語る物語だ。冒頭にはたくさんの登場人物が出てくるが、最後は物語の中に吸収される。アンバランスな構成だけど、これが「鏖」のアンサーであるということを思い出すと、これ以上ないと思うような終わり方だった。浮き世から最悪へドミノのように倒れてゆく物語が「鏖」だとしたら、見渡す限り最悪な場所にいてもユウコを支え、信じるものがあるユリはやはり姫で輝いていて(WIMのマリアのようだ、と少し思う/壊れなかったマリア)、でも記述する文体にはどこか、悪態めいて辛辣だ。そんで、もしかしてユイは、ユリなのだろうかと思うがそんなことは明かされない。でもいいんだ。あのラストは、よかった。