空中スキップ/ジュディ・バドニッツ

目覚めるとつかみ所のなくなってしまう夢の中の風景みたいに、懐かしくて捕らえ所のない物語が、読める、ということにびっくりした。大好きな本は数多くあるけれど、この本はちょっと特別な存在になった。そして、恐れを知らずに言ってしまうと、たぶん、私が書いてみたいと思っていたのは、こんな文章だったんだ。

空中スキップ

空中スキップ

ジュディ・バドニッツという作家さんの作品を読むのは初めてで、たまたま本屋さんで、岸本佐知子さんの翻訳ということで手に取りました。既に翻訳出版されてるものもあるそうですが、全部で23の短編が収録されているこの短編集が、ジュディ・バドニッツさんのデビュー作ということです。原題は「Flying Leap」。これを「空中スキップ」と訳すところからしてすてきすぎる。
巻末の訳者あとがきで、「この本を読むということは、たとえばラジオのつまみを回して飛び込んでくるいろいろな周波数の電波に耳を傾けるような、見知らぬ遊園地の乗り物に次から次に乗せられるような、そんな体験に似ている。」と表されているように、この本におさめられた作品はどれも、空間をすこしずつずれて、スキップする。でもそのイメージの連なりが、しっかりと肌触りとして伝わってきて、その、物語が立ち上がるような感覚にくらくらする。
23の物語はどれも異なる味わいなのだけど、全体的な食感は、皮肉の中にも切実さの垣間見えるもので(あるいはその逆で)、ガーリーな雰囲気を纏いつつもスタンドアローンな力強さを感じる。日本でいえば、古川日出男さんみたいな雰囲気かな。
特にすばらしいと思ったのは「産まれない世界」と「電車」。ほかにもたくさんあるけど、この2つはすごく印象に残った。「電車」は、私にとってあまりにも理想の小説で、読みたいんだか読みたくないんだかわかんなくなりながらむさぼり読みました。「産まれない世界」については下に。