わたしが無職だったころ

春になると、最初の勤め先を辞めて、無職になったときのことを思い出す。よく自転車に乗った日々だった。菜の花が満開の川沿いを走り、公園へ行って本を読み、風がつめたくなれば喫茶店へ移動し本を読み、ブによって本を買い、家に帰ってまた本を読んで眠った。
一見、なかなかに充実した日々のようだけど、結局は暇から逃げていたのだと思う。少し目をそらせば、自分が無職であるという事実に気分が重くなったし、友達にあえば、その話になるのがわかりきっていたから、携帯電話も持ち歩かなかった。持ち歩いてもあまり見なかった。その習慣は今でもつづいていて、メールの返事がおそいとよくいわれる。
でもたまには人に会った。そして、私が数日ぶりみたいに感じていることと、相手が数年ぶりみたいにふるまうことに、もしくはその逆に、すこしさみしくなった。
力強くペダルを踏み込む。そのことで少しずつ薄く遠くなれるような気がしたけど、薄く遠くなっていったのは春で、雨の後には夏がきた。
夏生まれの性分なのか、暑さと天気の良さを見せつけられたらもう、屈服するしかない。ふらふらと町へ出て、アイスを食べ歩き、お金もないのに夏フェスに行って、アタリメを食べビールを飲んだ。そしてふと、お金が欲しいと思い、秋になったら仕事がきまった。
出勤日までの数日、私はまた自転車に乗っていた。長い夏休みの間にたまりまくった本を少し売り、ビールを買って公園へいった。平日の昼間の公園に、ひとりでいるのはわたしだけだった。そして、すでにそれを贅沢だと思っている自分の贅沢さにあきれつつ、あしたからしごとです。とメールをかいた。