記憶でつながる

幼なじみの結婚式に出席した。
幼なじみ、とはいえ、一緒に過ごしたのは小学校の頃だけで、その後は1年に1回、会うか会わないかの関係だったし、会うたびに会ってなかった時間をうめるような会話をするには、長いこと離れ過ぎていて、どこかぎこちなさを感じてもいた。
だからなのか、今日は結婚式だというのに、私はいまひとつぼんやりした気持ちのままでいた。それがなかったといったら嘘だと思う。なにしろ、小学生の頃の記憶がほとんどだから、彼女がこれまでどんな恋愛をしてきて、家族になるその人とどのように出会ったのかも、私はほとんど知らないのだ。
それなのに、今朝、仲の良かったもうひとりと待ち合わせして、会場に向かう道すがら、三人が出会ったきっかけについて話をしていたら、そんな思いはあっという間に消えてしまった。

私たちがであったのは、小学校三年生のときに同じクラスになったのがきっかけだった。下校途中、道ばたに座り込んで長話したり、お互いの家に泊まったり、好きな人について話したり。三人とも絵を描くのが好きだったから、三人で漫画雑誌を発行したりもした。もちろんフル手描きなので、発行部数1だし、読者もお互いとその兄弟くらいだったのだけど、それでも10号以上は続いたと思う。おおむね妄想の産物でしかなかったけど、楽しかった。
そういえば、あの子は絵を描くのがうまかった。壁新聞に連載してた漫画が大人気で。初恋の彼を好きになった理由は泳ぐのうまいからだったでしょ、三人でチョコつくったな、告白できなかったんだよね、あの公園、まだあるかな、あるよこのまえ通った、また行きたいね、三人でね。日の出見にいったの覚えてる? もちろん、あのとき私たち、はじめて徹夜したんだよね。
そんな風に、記憶はどんどんつながっていった。

驚くほど鮮明な記憶が押し寄せてきた頭の中は、すっかり小学生気分なのに、ふと気付けば目の前には、ドレスをきたあの子がいる。照れくさそうな顔で、指輪を交換し、会場に深々と頭を下げるあの子の礼儀ただしさやさしさを、私はよく知っていた。

式のあと、披露宴の会場につくと、机の上にメッセージカードがあった。
そこには、習字を習っていたころとかわらないあの子の字で、私たちの「秘密」が書いてあって、そのあまりの懐かしさに私たちは苦笑しながらちょっとないた。向かいに座っている彼女の伯母さんも、カードを読みながらボロボロないていた。「うれしいですね」と声をかける。席に座っている全員が、誇らしげな顔で頷く。
彼女が覚えていてくれてうれしい。その彼女のしあわせそうな顔が、うれしい。
ああそうだ私たち、会ってなかった時間を埋めるんじゃなくて、もっといろんなこと、思い出せば良かったんだ。私が見てなかったことを見てる人がいて、あの子たちの見てなかったことを私はきっと覚えている。これはそうやって続くものだった、って、やっと気付いた。