あるスキャンダルの覚え書き

ichinics2007-06-03
監督:リチャード・エア
原作:ゾーイ・ヘラー
イギリスの中学校を舞台に、新任美術教師シーバ(ケイト・ブランシェット)と、お局様的先輩教師バーバラ(ジュディ・デンチ)の関係が描かれる。「彼女の恋の相手は15歳だった」というキャッチコピーから、てっきり道ならぬ恋の物語なのかと思いきや、愛猫とともに孤独な生活を送るバーバラのシーバに対する「執着」が物語の中心だった。
シーバと出会い、彼女の観察日記を書き綴るバーバラは、シーバの生徒との不倫をネタに彼女を独占しようと囲い込むのだけど、この歪んだ愛情のかたちをどうとらえるかで、物語の印象はかなり変わってくるだろう。
バーバラはシーバの社交辞令を真に受けて日記に書き、家に呼ばれて喜び、信頼されていることに高揚し、彼女に会えた日の日記に金星を貼る。確かにいびつだし、その執着はけしてシーバへの愛情ではない。しかし、この映画が、疑似恋愛としてかわされる少女の友情(ex「蝶々の纏足」/山田詠美)、だったらきっと雰囲気はまるで違っていたし、実際この物語は少女のままで愛情の矛先をどこに向ければ良いのかわからないバーバラと、たまたまその餌食になったシーバという「ごくふつうの」女性の物語に見える。依存関係というのは、相手と気持ちのバランスが釣り合わないだけでこんなにも惨めなものになってしまうのだな、と、空恐ろしい気持ちになる。
だからこそ、私はバーバラが最後まで救われないこの映画は、いったい何だったのか、見終わって正直困惑してしまった。
たとえばこのバーバラの役が、ジュディ・デンチでなければ、サイコスリラーになっていたのかもしれない。それにもっとおどろおどろしく描く方法はたくさんあった。
それなのにそれをしていない。それなのにバーバラは最後まで何も変わらない。物語には変化が必要だ、なんて思わないけど、変化しないのでは、映画が描きたかったのは「こわさ」なのかと思えてしまう。
個人的には、シーバの受難などどうでもよくて、ただ独占欲にとらわれ、嫉妬に狂い、相手に依存してしまうバーバラがこわかったし、だからこそ救われて欲しかった。
見終わってあっけらかんと「こわかったねー」と言いあう女の子たちを尻目に、ただひたすら気持ちが重くなった。何故かはうまくいえない。