That Summer Feeling

電車の中でうとうとする。何度も駅名を確認する。初めて乗る電車なのに、どこを見ても懐かしいようなきもちになる。開いた文庫本からは西日のにおいがして、繰り返し同じ行をたどってもその意味がつかめない。本を閉じ、ついでに目も閉じる。目を開くたびに、向かいには違う人が座っている。イヤホンをのばして耳にいれる。音楽を聞きながら、つま先でリズムをとる。いつの間にか海沿いの掘建て小屋で、わたしはビールを飲んでいる。ギターの音。駅名を確認する。目的地につく。まじめに話をする。あまりにも日差しがまぶしくて、焦点があわなくなるのをこらえようとしていたら、くしゃみがでる。すみません、ええ、へいきです。
玄関から靴を運んできて、庭先から失礼する。空き地、駄菓子屋、アイスのショウケースを覗き込む、こどもたちのでろんでろんのタンクトップを横目に、駅へ向かい、水色のベンチにすわる。目が脈打っているのがわかる。ぎゅう、と閉じて、開くと向かいのホームでおじさんがズボンを脱いでいる。でろんでろんのトランクスとソックスになって、ズボンを袋にしまい、だしてきてまたはく。高い位置でぎゅう、とベルトを閉める。これでよし、というところで目が合う。電車がくる。イヤホンを耳にいれ、本はあきらめて目を閉じる。サイダー味のアイスキャンデー、ほおばりながら踊っていると、転んだ、赤いタンクトップの子、泣きだす顔はあっという間にでろんでろんで、へいきへいき〜と笑いかけた私の顔を、何かおそろしいもののように、見つめる。