「船を建てる」の序文を読んでいると「What a Wonderful World」という曲のことを、もしくは「時は春、日は朝、朝は七時」からはじまるあの詩*1のことを思い出す。とてもすてきな序文で、ここだけでも読んで気に入ったなら、きっとこの本が大好きになるんじゃないかなって、思う。上巻下巻それぞれの冒頭カラーページにあるので、まだ読んだことなくて、気になってるっていう人は、良かったら本屋さんで最初のページだけでも、開いてみて欲しいです。
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そして、もし、それを私の言葉で探すなら、と考えていて思い出したのは、9月のはじめ、私がついったに書いたこんな(だらしのない)風景のことだった。
「畳の部屋で、窓開けっ放しで海とか見える感じで、もうすぐ夕方ってくらいの膨張しきった暑さで、「蚊取りつけて」「んー」なんて生返事しつつ、寝返りうって、隣んちからカレーのにおいがして、表を歩いていく人の気配のあとからパープーって豆腐屋がやってきて「そうだ冷や奴」ってミョウガつんできたりして、冷えたビールとか、テレビが遠くにある感じとか、そこにうつっているのは大相撲だったりする、そんな日曜日(をやりたかった)」
10月もなかばに近付いてなお、まだ夏がもどってきてくれるような気がしている私の往生際の悪さを、それに近付けて考えることがおこがましいほど、「船を建てる」で描かれる風景の数々は、一場面ごとにきれいで切実で特別なのだけど、その向こうで、日本のどこかで、私が寝返りをうっているかもしれない。そんなふうに思う。
「ハロゥ ハロゥ 僕 煙草です」
「ハロゥ ハロゥ 僕 コーヒーです」
そんな声が、どこかから聞こえてきたりしてね。
すばらしくおいしい飴をなめながら、それがどうかなくなりませんようにって、噛み砕かないようにそっとなめてるときみたいな。
日常っていうの? それをスーッとスライスにした瞬間、風が吹いて散らばって、ながくながく引き延ばされて、いつまでも見送っているような、なつかしい気持ちだ。
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*1:#45に出てくる