冬の夜

夜そとを歩くと歯が鳴るほどに寒くて、もうだめだ、負けた、認める、冬の番だ、とか勝手に降参する。黒く、でも濁ってはいない空は高くて、ひとつオレンジ色した星があるなぁ、と見ていると、点滅したのでそれはたぶん飛行機だった。上を向いたまま声を出すと、白い息が降ることなく消える。
そして思い出したのは、白い息を、かきわけるように歩いた、いつかの冬のこと。その日はクリスマスで、私が塾帰りだったから、小学6年生のときだと思う。
今日の晩ご飯は豪華で、ケーキもあるよというのを聞いていたから、ずっと楽しみにしていた。なのに、塾の授業が(たしか冬休み前最後の授業とかで)長引いて21時すぎとかになって、時計を見るたびにはしゃいだ気持ちはしぼんでいって、そしてバス停まで迎えにきてくれた母さんの「もうみんな寝ちゃったよ」という言葉にトドメをさされ、わたしは “ブーたれて” 歩きはじめたのだけど、
ふいに「さむいさむい」とか言って母さんに手を繋がれた時の、びっくりするような、少し気恥ずかしいような、あの気分のことを思い出したのは、たぶん今、あちこちにクリスマスの飾り付けがしてあるからでもあって、まあまだ11月だし、いくらなんでも早すぎるよねぇ、とは思いつつ、季節ごとの飾り付けというものは既に見なれたものになってしまっているからこそ、例えば花のにおいや、日差しの感じと同じように、記憶を喚起することもあるのかもしれないな、なんて、言い訳をする。
あの頃にはもう弟が2人と妹が生まれていたから、母親と手を繋いで歩くなんて、すごく久しぶりのことだった。お祭りに参加しそこねたような、すねた気持ちを引きずりつつも、その早足に遅れたら手がほどけてしまうと思って、歩いた、あの足取りの切実さを思い、鼻の奥がつんとする、この空気の張りつめた感じは好きだと思う。むかしよりずいぶん、冬に慣れた。