ゴールデンスランバー/伊坂幸太郎

ゴールデンスランバー

ゴールデンスランバー

首相暗殺のぬれぎぬを着せられた主人公の物語。
人物配置とか小道具の使い方とか、伏線の張り方とか、相変わらずうまいなあと思ってしまうし、ラストにはもちろんぐっときたのだけど、これまでの新潮社シリーズにくらべると、いまひとつ切れ味が鈍いようにも感じた。
新潮社シリーズ、とかいたのは、実際にシリーズなわけではなく、「フィッシュストーリー」の感想でも書いたけど(id:ichinics:20070317:p1)、伊坂幸太郎さんの作品を読んでいると、どうも出版社ごとに作風が違う、ような気がするからだ。そしてこの「ゴールデンスランバー」を出している新潮社のイメージが最も「伊坂幸太郎作品」のイメージに近いのではないかと思うのだけど、「魔王」「砂漠」「終末のフール」と続いた流れが個人的にかなり重要なものとして印象に残っている中で、この「ゴールデンスランバー」は新潮社シリーズにあるようなミステリーとしての面白さと、「魔王」にあった(と感じられた)伊坂さんの切実さみたいなものと、どっちに重心をおいて描かれているのか、いまひとつわからないままだった。
特に、別れた後は他人も同然、ていう関係にはもうちょっと書きたいことがあったんじゃないかっていうような物足りなさがあった。このラストは大好きだし、「習慣と信頼」っていう言葉もすごく好きだ。それでも「習慣と信頼」を軸ととらえるにはもうちょっと何か欲しかった。
ってなんだかすごく贅沢なこと書いてるけど、やっぱ、砂漠に雪を降らせるんだっていう、あの勢いをもっと読みたいなあって、思ってしまう。