人のセックスを笑うな

監督:井口奈己
原作もよかったし、なにより「犬猫」の井口監督新作ということで、公開前からとても楽しみにしていました。でも何回か劇場まで行ったのに満席で見れなかったりして、今日やっと見れた。それでもまだほぼ満席。

井口監督の前作、「犬猫」で描かれてたこと、あれはやっぱり友情の話だったと私は思う。ひとりひとりでいることができる友達との空間と、異性が入ることで崩れるバランス。お互いに不器用な二人の女の子がすごくいとおしい映画だった。
しかしこの「人のセックスを笑うな」で描かれるのは、ひたすら「恋」だったと思う。一方通行の切実が乱反射して、カメラの奥に見える視線がいちいち切ない。
原作を読んだ時、私はこの物語について「女性が描く男性視点の物語」であるにもかかわらず、主人公に感情移入しやすい設定であるところが面白いと思った。恋する側である主人公の、その戸惑いや不安や欲求に、答えがでないのは対象である異性「ユリ」が種明かしをしないからだ。最後まで弱さを見せない、そこが「犬猫」のスズとは異なる点であり、つまりユリは「異性」の象徴のように描かれているのではないかなあとか、思った。
それでも、猪熊さん(あがた森魚さんがすてきだった)といるときだけ、ユリは女性として降りてくる。この描き分けも、すごく良かった。それはたぶん、そこでだけユリが視線になるからだ。それだけで、もちろん、説明的な描写があるわけではないんだけど、例えばみるめが「カレー嫌い」というあのさりげない会話ですら、映画の中での関係を描く、うまいキーワードになっていたと思う。「意味ないじゃん」という、えんちゃんの印象的な台詞があったけれど、映画の中では全ての言葉が意味を持っていると思った。それはかなしいことだったり、しあわせなことだったり、それぞれ異なる方向を指してはいるのだけど。
そんな「えんちゃん」を演じる、蒼井優ちゃんがすばらしい。みるめが好きで、でもみるめはユリに恋していて、だから、えんちゃんがきっとたくさん考えてやっと発したんであろう言葉も、みるめは見過ごしていく。その、えんちゃんの不器用さは誠実さでもある。だからこそ、みるめのばか。と見てる私は思うけれど、その力関係は少し視線をずらしただけでかわる。
あの、堂本君が「おれも待つよ」っていってんのに帰らされる場面と、ラストの不意打ちにはまいった。このお話の中で、いちばんつよくて、がんばったのは彼かもしんないよと思う。ラストの、あの瞬間が恋だとしたら、恋愛はそこからはじまるんだなあとか、わかんないけど、考えたりした。気持ちに振り回されるのは、つらいけど悪くないよなあとか。