めでたい香港

19歳のとき、香港へ旅行に行った。友達と2人で、10日くらいぶらぶらして、船でマカオにも行って、すごく楽しかった。
泊まるとこも決めずに行ったのだけど、地下鉄の駅あがったとこで声かけてきたゲストハウスのおばちゃんが、うちの母さんに似てて、だから迷うこともなくそこ泊まることにした。おばちゃんの宿は、安宿の集合ビル、チョンキンマンションの中にあった。
土産物屋やキオスクのような売店がひしめく薄暗いビルの入り口は、とにかくいろんな人種の人でごったがえしていて、おばちゃんがいなければ足を踏み入れることすらためらったかもしれない。しかし、入り口近くにあるエレベーターに乗って、おばちゃんの宿につくと、中は意外なほど明るかった。しかも、私たちが案内されたのは、花柄のベットカバーがかわいい子供部屋のようなところで、私たちはすぐにそこが気に入った。
それからはひたすら町を歩いて、ひたすら食べ、たくさんの人とたくさんの看板を見て過ごしたのだけど、そのときのちょっとしたハプニングで、印象に残ってることがある。
まあ、女子ならではの話なので、あれなんですが、
帰国予定の数日前、友達が生理になって慌てたことがあった。その子は予定外の時期だったから生理用品ほとんど持ってきてなくて、私もちょっとしか持ってなかったから、ゲストハウスのおばちゃんに薬局の場所きいて買いにいくことにした。
でも、薬局の棚をはしからはしまで探してみても、生理用品はみつからなかった。香港では薬局でなくてもっと別のとこに売ってるものなんだろうか…とか悩みつつ、薬局のおばちゃんに漢字で説明してみるが伝わらない。仕方ないから、つたない英語で「マンスリー、ブラッド」(←ひどい)とかいって説明した。
すると、それまで「外国人がなんかいってんなー」って顔で見てた薬局のおばちゃんが、にこにこしだした。そして、レジカウンターの下から出してくれたのはまさに…なんかでかいけどまさに…!
「それです!」と言って私たちは笑った。
すると薬局のおばちゃんも、親指をグッと立てて、
「コングラッチレーション!」
と笑ってくれたのだった。

最初はそれ、見つかってよかったねという意味のおめでとうだと思ってたんだけど、宿にかえる途中、でもなんかおかしいよねという話になった。そういえば、一緒にいた友達はわりと童顔で、スーパーで買い物してたときも私たちを指差し「シスター?」とか聞いたひとがいたし。
「もしかしてあのコングラッチレーションは、赤飯みたいな意味のおめでとうなのか?」
ということに気付いて、私たちは大笑いした。
あれから香港には何度も行っているけれど、薬局事情は今も謎のままだ。……というかたぶん普通に売ってると思うんだけど、そんでも、今もあのおばちゃんは「コングラッチレーション」といって少女たちにあのでかい袋を手渡してんのかと思うと、それはそれですてきなことだなーと、思います。コングラッチレーション思春期。