夏


なんだってできるような気がしてた、という歌詞だったり物語の文句だったりを、何度も目にしたことがあるような気がするのだけど、たしかにわたしも、いつかはなんだって、できるような気がしていた。その時は何もできないと思っていたのに、あたりまえのようにいつかはなんだってできるようになると思っていた。
けどその「なんだって」がどんなことなのかは、いまいち漠然としたままで、思いつくのはたとえば、海のそばで暮らしたいとかタイル貼りをしてみたいとか、木の上に基地を作ってみたいとか犬を飼いたいとか、子どもの頃からちっともかわらない憧ればかりで、まあもっと言えば空を飛びたいとかすごく早く走りたい(水面をあるけるほどに)とか、動物の言葉を解したいとかおしいれのぼうけんしたいとかロボ乗りたいとか宇宙とか青春とか、さすがにもうそういうことは口にださないくらいには「いつか」から遠くなってしまった。
けど、そういうことができたらいいよねえ、という気持ちはまだどこかほんとだったりする、などといったら、笑われるのだろうかということをたまに考える。というか、いいよねえって言ってるだけで、それを信じて何かできるわけじゃないでしょ、って私に笑われるかなとも思う。うんまあそうかもしれないんだけど、でもたとえば夏の、夏休みの感じとか、眩しさと日陰のサイダーの瓶とか、濃い影の滑る緑の田んぼが、ザァってそよぐときのあの感じに、なんかあれまだ大丈夫なのかもとか、思うこともあって、
あの、一瞬の全能感みたいな感じだけは手放さないでもいいんじゃないかなと思う。