FAX

FAXってものをまだ見たことがなかったとき、紙が転送される機械ができたと聞いて、とうとうどこでもドアが完成したんだと思った。そして、紙が可能なら、やがて人間だって可能になるだろうと思った。
子どものころ読んだ絵本に、人間の転送実験中にハエが入り込んでしまったためにハエ男になってしまった…というのを読んだことがあったけど、そんな事態を防ぐためにも、まずは分解システムを完成させとかなきゃいけないだろう。ハエ男はその後どうなったんだっけ。
ところで、転送され、分解され、再構成される私は、元通りなのだろうか。すこしづつ、とりこぼされる部分があったりはしないのか。例えば胃がなくなる…とか、髪質がかわる…とか、そんな表面的なことではなくて、私という入れ物に入っているこのデータの部分が元通りかどうかは、どうやったらわかるんだろう。
そもそも、データの部分てなんだ。ドーナツでいったら穴の部分、それは記憶とかそんなものとも違って、私がたまたま私になった、そのたまたまのことなんじゃないか。
本物のFAXを初めて見たとき、私はずいぶんがっかりした。送られてくるのは、向こう側にあるそれではなくて、その複写だということがわかったからだ。もちろん、それはそれですごい技術なのだけど、
この方向でいったらいつか人が転送される機械ができたとしても、それは複写を送るものになるような気がする。私はここにいるままで、私に似た何かが向こう側に届く。途中でハエが混入することがあったとしても、私もハエもここにいるままだ。たまたまは二度ない。
奇術師*1はもしかしたらそういう話だったんじゃないかなとか思った。