健康診断の日

金曜日、延期しまくっていた健康診断にやっと行くことができた。
ピンク色のぱりぱりした服に着替えて待合室に入ると、みんなそれぞれ文庫本や携帯電話を持ちこんでいて、自分がロッカーに全部置いてきてしまったことに気づく。
取りに帰ろうかとも思ったけど、いつ呼ばれるかわかんないしなぁと、そのままずらりと並んだベンチの隅に腰掛ける。みんなが同じ服を着ていると、年齢やら職業やらがよくわからなくなるな、と思う。その紛れる感じは安心なようで、どこか居心地が悪い。
手持ちぶさたでいるとついつい意識が遠のいて、目覚めるたびに、もしかしてもう呼ばれたかも、呼ばれたのに気づかなくて、いないと思われてるのかもと不安になる。そんな頃合に名前を呼んでもらえるとなんだか嬉しくて無駄に勢いよく立ち上がってしまうのだった。

いくつかの検診をすませて、診察着から洋服に着替えた後、最後は視力体重採血の部屋へ呼ばれた。
眼鏡を忘れてしまった旨を伝え、「でも普段裸眼なので…」と自信満々で視力検査の顕微鏡みたいなのをのぞきこむと…、一番大きなCすらよく見えなくて焦った。「左…」「ほんとに左に見えますか?」「いや…下かも知れないです…」みたいなぐだぐだなやりとりの後、告げられた視力は前回より0.4も落ちていた。
落ち込みつつ、早急に新しい眼鏡を買わなくちゃと決意する。しかし眼鏡というのはかけてみなくちゃ似合ってるかどうかわからないものだし、できれば目の前でかけても恥ずかしくない人と一緒に買いに行きたいと思い、迷わず妹にメールをした。

そういえば去年の健康診断の待合室では、確か「人のセックスを笑うな」を読んでたなぁということを思いだす。あのタイトルを見るたび、べつにわらわないよと思うのだけど、今思い出して印象に残っているのは映画版の、あおいゆうちゃんの「みるめのバカ」であり、ラストシーンのスイッチであり、私はあのラストとても好きだけど、あのあとみるめはどうしたんだろうなどと、まるで彼らがどこかに実在する友だちの友だであるかのようなことをふかふかと考えていた帰り道、でもとにかく、待合室で名前を呼ばれるのは嬉しいなと思った。