昔話/サンタクロース

まだ私がなんとなくサンタさんの存在を信じてた頃、たぶん小学一年生のときだったと思うけれど、サンタさんからのプレゼントのコートに、手書きの手紙がついていたことがあった。

「サンタさんじゃよ。冬は寒いので外に行くときはこれを着なさい。お母さんのいうことをよく聞くんじゃぞ。サンタより」

手紙にはそんなことが書いてあった。右下にはコマのイラストが書いてあるおよそクリスマスらしくない和紙に書かれたサンタさんの字はガタガタで、たぶん手がかじかんでたんだな、ということに気づいたのは、それからずっと後、机の奥に入れていた紅茶の箱から、その手紙を改めて発見した時だった。
一年生になったのは、私に弟が生まれた年であり、私の一人っ子が終わった年でもある。
その年まで、クリスマスの夜は、ツリーのしたにサンタさんあての手紙とお菓子と、暖かい飲み物を用意しておくのが習慣で、プレゼントのリクエストはお母さんがサンタさんに電話をかけてくれることになっていた。
コートについては、リクエストしたんだったかどうか忘れてしまったけれど、ともかく朝になって枕元におかれたリボンのかかった箱をみつけたときの嬉しさといったらなかったし、ツリーの下の空になったお皿は、サンタさんがきてくれたなによりの証拠に思えた。
その後、弟や妹が生まれて、私がサンタ役をつとめた年もあったりして、やがてクリスマスは「みんなで雑魚寝」が楽しみなイベントへと変化していくのだけど、
ともかく私は、あの年のサンタさんが、父さんであったということは、つまりこの手紙を書いたのも父さんなのだ、ということに、ピンとこなかった。私の知る父さんは「サンタじゃよ」なんて冗談をいうような人ではない。なんか父さんじゃないみたい、と、その手紙を発見したとき、私は笑いながら母さんに報告した。
すると、母さんはひどくまじめな顔をして私をたしなめた。「父さんはすごくまじめだからね」
私は「まあ、そうか」と生返事を返し、確かに、父さんはすごくまじめな人だ、と思った。まじめだからこそ、私の信じるサンタさんに応えてくれたのだろうし、いつもなら照れくさくてできないようなことも、サンタの役でならと思ったのかもしれない。
ともかく、皮肉屋のあの父さんが、帰宅する頃にはすっかり冷めていたであろうツリーの下のお茶を飲み、お菓子をつまみながらかじかむ手でその手紙を書き、足音しのばせて眠りこける私の枕元にプレゼントをおいてくれた、ということを考えるだけで、私のサンタさんはもうじゅうぶんなように思う。