落ちる。

私を見る人々の反応のほとんどは “驚き” で、最初のうちは「気にしないでくださいね」と声をかけるようにしていたが、余計驚かせることになるのでいつしかやめてしまった。
怒る人もいたけれど、彼らの声が届くより先に私はそこからいなくなったし、彼らもまた私のことなんてすぐ忘れるだろうと思った。
手を振る人もいた。おがむ人もいた。網のようなものを構えて私を捕まえようとする人もいた。最初は私も手を振りかえしたり会釈してみたり笑って逃げるふりをしていたのだけれど、そんなのにももう飽きてしまった。
もっとも多かったのはなぜか「親方!」と叫ぶ人で、それはなにか、暗号のようなものなのかといぶかしく思ったけれど、問い返す暇もないので無視することにした。
そろそろこんなのは終わりにしたいな、と思った。でもどうやったら終わるのかがわからない。地面にたどり着いたら終わりだろうか。そもそも私がこうしているのは地面にたどり着くためだっけ…?
私はいつからこうしているんだろう。これが終わったら、やりたいことたくさんあるのに。

そう思ったところで目が覚めた。
私は白くて暖かなベッドの上にいた。あわてて飛び起きて、自分の両足がきちんと床に触れていることを確認する。ひんやりして気持ちがいい。窓に向かう。窓の下にはきちんと地面があって、ほんのり土のにおいが鼻先をかすめるようだった。
すると急に視界が暗くなり、空を見上げると女の子が落ちてくるところだった。私はここぞとばかりに「おやかた!」と叫んでみたい誘惑におそわれたのだけど、自分だったら確実に無視するのがわかっていたので、とりあえず「お茶でもどうですか?」と誘ってみた。落ちるのはけっこう息苦しくて、喉が渇くものなのだ。
女の子は「ありがとう」と笑い、するりと窓に滑り込んできた。
あらためて「おじゃまします」と会釈をするのを見て、私はいっぺんに彼女のことが好きになった。それから二人でお茶を飲み、これから何をしたいかを話し合った。
なんで落ちることになったのかについては話さなかった。それよりも今はやりたいことの方がたくさんあって、だからそもそも落ちていたことも、いつの間にか忘れてしまった。

* * *

【降臨賞】空から女の子が降ってくるオリジナルの創作小説・漫画を募集します。
条件は「空から女の子が降ってくること」です。要約すると「空から女の子が降ってくる」としか言いようのない話であれば、それ以外の点は自由です。
http://q.hatena.ne.jp/1231366704

いろんな人の読むのがすごく楽しいです。照れくさいより楽しいが勝ったので懲りずにまた書きました。もうしません。でもまたあったらやりたいな。
食人賞のときとかは楽しそうだなーと思いつつやらなかったのが悔しかったので、今年はなるべく自分の照れくささとかを気にせず、書きたいと思って書いたらなるべくあげてみようと思います。これが今年の抱負その2。いやいままでのだって読み返せばじゅうぶん照れくさいんだけど。