ジャブ

寒い日に、寒い寒いとかいって肩すくめながら暗い道を歩いていると、家へと続く緩い坂の中腹に弟が大の字になっていた夜のことを思い出してほんの少し身構えてしまう。
街灯の光の届かない路地の奥にほんのり光る弟の眼鏡はまるで人魂のようで、思わずびびってあとずさった後、弟だと気づいて一度は素通りしたものの、でもなー冬だしなーと思って声をかけると「ふひひひひ」と笑い出したので、ちょっとむかついた。そんな弟の泥酔談については翌日じっくり聞くことになるのだけど、そういえばあれは弟が大学に入った年の暮れだったな、ということをこの前誰かと「茶の味」の映画の話をしたときに思い出していて、「茶の味」に出てくる春野一君はじめ、思春期男子の通過儀礼とも言われる電気のヒモジャブデビューもあの年だったし、はじめての飲み会がありはじめてのカラオケがあり、思えばあのとき弟は輝いていた。
そして今もかわらず、つい先日の正月にだって弟はヒモジャブ転じて鏡ジャブに精を出していたのだけど、それはもはや運動不足を解消するつもりの気休めにすぎなくなっており、とはいえ私も私で気分転換といえばこのように思いついたことそのままダラ書きすることだったりするので人のこといえないっていうか、どうしようもない。