東京タワー

打ち合わせに通された部屋の窓は額縁みたいにちょうどその正面に東京タワーを据えていて、私は待ちぼうけを食らっていた30分あまり、やっぱり東京タワーを見るなら昼間だよなぁということを考えていた。あの紅白が見えるだけで風景が昭和っぽいというか、特撮映画っぽいというか、いくら近代的な建物が立ち並びドトールのひとつも見つけられないような町並みの中にいても、ここは私が良く知っている東京だという気持ちになれる。
とはいえ、たぶん私は「東京」にそれほど思い入れがあるわけではなく、どこにいてもいつもどこかぼやけた気持ちになる。それは、きっと視力が悪いままずっと眼鏡もかけずにすごしてきたからで、だからこそ、私の目にもはっきりとわかる東京タワーの大きさが心強いのだろうと思う。
打ち合わせの帰り道は案の定道に迷い、東京タワーは右にあったり後ろにあったりした。それで昔、付き合っていた男の子と東京タワーの下にあるお店でカレーを食べた後、お互いポケットに手を入れたまま上の空で歩いていたら、やはり道に迷って、なぜか海について、そうかー港区だもんねなんてことを話したのを思い出した。思い出したけど海には向かわず、コンビニで一番近い駅を教えてもらった。東京タワーは後ろにあった。