阿房列車/原作:内田百けん 漫画:一條裕子

阿房列車 1号 (IKKI COMIX)

阿房列車 1号 (IKKI COMIX)

内田百けん*1の鉄道の旅シリーズ『阿房列車』を漫画化した作品。原作を読んだのはもう10年以上も前のことなのでうろ覚えではあるものの、時折覚えのあるエピソードが出てきて嬉しい。
百けん先生の魅力といえば、「なんにも用事がないけれど、汽車に乗って大阪へ行って来ようと思う」という思いつきを嬉々として実行し、トンボ帰りして貧相な気持ちになって帰宅したりする、その裏表のなさにあると思う。意地を張るのも、楽しむのも、一枚岩であるような、我侭の気持ちよさがある。それと同時に、少しだけ自分の父親に似ているようなところもあるので、個人的には少しこそばゆくもあるのだけど、
鹿児島阿房列車後章にある「献酬の手」などは、百けん先生の魅力がいかに多くの人を惹きつけていたかを窺い知ることのできる名場面であるように思う。
それにしても、内田百けんが、などと書いてみて、先生という言葉をつけなければなぜか落ち着かない心持になるのはなぜだろう。

そして、この作品を漫画にしている一條裕子さんの絵柄がまた、私の思い浮かべる百けん先生にぴったりだった。
この作品は、ほぼ原作そのままにイラストをつけたような漫画化なのだけど、コマ割りのリズムがすばらしく、見開きで手を止めるたびに、ああ電車に乗って遠くに行きたいなと思わされるのだった。何の用もなく、気軽な感じでどこかへ。

*1:もとの字を打ったら文字化けしてしまった