昔話/ロールパン

幼い頃、よくロールパンを食べた。
近所に子どもたちが集まる公民館のようなところがあって、入り口に並べられた大きなダンボールいっぱいに入ったロールパンを、各自一袋づつもらえることになっていたのだった。
私はよく、幼馴染のAちゃんやHちゃんと一緒にそこへ行っては、ロールパンをもらった。近くに湧き水のある小さな丘があって、ちょうど湧き水の真上にある木のうろに私たちはドラクエのダンジョンマップ(手書き)やラメ入りのえんぴつキャップ、いらないキン消しとか授業中にまわした手紙をしまったりしていたのだけど、帰りにはよくそこへ行き、人に見つからないように(気分の問題)ロールパンを食べた。
そのロールパンはいつもできたてて、ほんのりあたたかかった。バターのいいにおいがして、いつもはすぐに食べ終えてしまうのだけど、一番好きなロールパンの食べ方はやっぱり家に持ち帰ってトーストすることだった。
トースターで3分くらい焼いて、背中がちょっと焦げそうになったところでだして半分に割ってバターを塗る。それをまた閉じてかぶりついたときの、溶けたバターとロールパンの背のカリカリ具合が大好きだった。
でもいつしかそのロールパンの風習はなくなり、湧き水の丘も立ち入り禁止になってしまったのだった。

そんなことを思い出して、先日久しぶりにロールパンを買ってみた。しかし、トーストして、さてバターを塗ろうと半分に割ると、そこにはすでにバターが入っていて、袋をよく見ると “そのままでおいしい マーガリン入り” と書いてあった。
なんて便利な世の中なんだと思うとともに、少し味気ない気分になる。バター入りロールパンを食べながら、そういえばあの木のうろには、いまだに私たちの入れたあれこれが、残っているのだろうかと考えた。