あるキング/伊坂幸太郎

あるキング

あるキング

仙醍キングス、という野球チームの熱狂的ファンである両親のもとに、王になるべくして生まれた王求という男の子の物語。仙「醍」と地名があてられてるように、架空の世界のお話として描かれています。
今までの伊坂さんの作品とはかなり雰囲気が違う、という評判のようだけど、個人的にはスポーツを題材にしているからか、「終末のフール」に収録されていた「鋼鉄のウール」に近いような気がした。そして、私はあの話がとても好きだったので、たぶんこの「あるキング」も好きな話といっていいのだと思う。でも好きっていうよりは、弱い、という感じだった。
読み始めでは、童話風の語り口とか、子どもに過剰な期待をする親だとかに少し構えつつ読んでいたのだけど、ひたすら野球の練習を続ける王求と、王求のたどる先が見え始めたところで、あー、と思った。
あらかじめ人生は決まっている、と言う彼の親は正直恐ろしいけれど、あらかじめ王になると決められていた王求が、「俺がいることで、野球はつならなくなっていないだろうか」と言う場面はかなしい。
そして、あのラスト少し手前の場面、p218から219にかけてのスローモーションにはまんまとぐっときてしまった。
そして、ここでも「鋼鉄のウール」にでてきた

「あなたの今の生き方は、どれくらい生きるつもりの生き方なんですか?」
http://d.hatena.ne.jp/ichinics/20060413/p1

という台詞を思い出したりした。

ミステリーに分類される伊坂幸太郎作品が好きな人には、きっと物足りないだろうなと思う。けど私はこういう、ひとつのことを続ける人の話にすごく弱い。