アンヴィル! 夢を諦めきれない男たち

監督:サーシャ・ガバシ
アンヴィルというバンドを追ったドキュメンタリー映画。興味もあったし、あちこちで絶賛されているのを読んで気になって見に行ってきました。でもなんか、予想していた以上にいろんなことを考えこんでしまいちょっと疲れた。なので、あんまり感想もまとまってないんだけど、一応忘れないうちに。

ドキュメンタリー映画の面白いところといえば、まず監督と被写体の間にある空気、緊張感だと思うのですが、この映画の場合、カメラとバンドとの間に緊張感のようなものはほとんど感じられませんでした。見終わった後、監督は80年代にアンヴィルのローディーとして、3回ツアーに参加した経歴を持つ人だと知り、これはもしかしたら身内のような間柄だからなのなのかもな、と思った。
映画は「SUPER ROCK '84 IN JAPAN」というライブイベントから始まる。私でも知ってるような、今も活躍するバンドが何組も登場する中に、アンヴィルもいる。大人気だ。でも今は…と映像が切り替わり、メタリカのラーズ、アンスラックスのスコット・イアン、スラッシュなどが、「アンヴィルはすごかった」「画期的だった」「でも皆が彼らのアイデアを利用して、そして見捨てた」などとコメントする。
そして、アンヴィルは「タイミングをつかめなかったバンド」という位置づけで映画がはじまる。

アンヴィルのリーダー、リップスは仕事をしながらのインタビューで、「冴えない人生だが、今より悪くなることはないと思えばやれる」、「アンヴィルだけが希望だ」、ということを話す。
でまあ、家族のコメントなんかもあるのだけど、私には正直なところ、彼がいるところが「最低」だとは思えなかった。
アンヴィルは、ドラムのロブとリップスが十代の頃に出会ってはじまる、いわば2人のバンドだ。映画はむしろ2人の友情物語としての色合いが濃く、その点で言えば彼らはとても幸せに見えるからだ。
確かにライブツアーの様子などはトラブル続きで散々なのだけど (でもここが映画で最もドキュメンタリーらしい見せ場でもある)、基本的に映画の中の彼らは、バンドであるということを誇りに思って疑わない。そうやって、30年間バンドを続けてきた、というのは本当にすごいことだと思った。

ただ、私がこの映画を見ながら考えていたのは (今までにも何回か引き合いにだしたことがあるけど)、以前に見た「(メタルファンにとって) あの夏にスレイヤーを聞いてたなー、なんてことはない」、という台詞のことだった。
それなら、彼らが「忘れられて」しまったのはなんでなんだろうか。
映画の終盤になって、リップスはかつて一緒に仕事をしたことがある、クリス・タンガリーディズというプロデューサーにデモテープを送る。そしてどうにか資金を工面してレコーディングがはじまるのだけど、
そのプロデューサーがアンヴィルを評して「何より私に連絡をとってきたのがすごい」と話していたように、持てるものを全部使ってバンドを続けるっていう意地のようなものが、映画で描かれるアンヴィルの魅力になっている。
でもそこから先はというと、映画はレコーディング風景でも、友情の方にピントを合わせてしまい、アンヴィルが「売れない」理由については、「タイミング」「マネージャー」「レコード会社」などキーワードはあがるものの、ほとんど掘り下げられない。
もちろん、バンドが「売れる」ために何をすればいいのかなんて言えないし、彼らの「ロックスターになる」という夢と「売れる」っていうことが同じなのかどうか…とか、そこら辺は抜けてきてるバンドなんだろうなと思う。
ただ、映画はなんとなく、メンバーが成功を信じているのに対して、その方向をあまり描く気がないんじゃないかなーと思ったりもした。
例えば、結局レコード会社が決まらず通販をしよう、ってなる場面があるんだけど、そういう場面をあっさり流してしまうのはもったいなかった気がする。

そんなわけで、いまいちすっきりしない気持ちで映画館を後にしたのですが、映画のラストを飾る、2006年のラウドパークの様子は確かに感動的でした。
あの散々なツアーの後だけに、バンドにとって、お客さんに迎えられる瞬間てのは、こんなに嬉しいものなんだなって、メンバーの表情を見て思った。