山本弘さんの小説を読んでみたいなと思っていたとこに、タイトルに聞き覚えのあったこの文庫版を見かけて買いました。面白かったです。
- 作者: 山本弘
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
- 発売日: 2009/03/25
- メディア: 文庫
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アイビスの語る物語はどれも人工知能をテーマにしたものだ。そして、6つの物語が語られた後に、アイビス自身の物語が語られる。つまり、6つの物語は、物語るための丁寧な下地になっている。
「作者をキャラクターと同一視してはいけないわ。それはまったく別のものよ。むしろキャラクターと同一視すべきなのは読者よ」
「読者?」
「そう。物語を読んだり聞いたりする行為は、一種のロールプレイよ。読者はキャラクターと同じ体験をする(略)」/p115
この本を読むこともまた、主人公と同じように、アイビスの物語を聞くロールプレイになのだと思う。
アイビスの物語とは、どうすれば「レイヤー0」、ヒトのいうところの現実世界を幸福な場所にできるか、という挑戦だ。主人公と同じように、どこかで警戒しながら読み進めていた私も、冒頭のいくつかの物語は「説明」みたいだなあと思いつつ、最後には素直に、確かに物語っていうのは面白いものだなと思っていた。
特に印象的だったのは、アイビス自身の物語の中に登場する、TAI(自分で考えて行動する真のAI、と解説されていた)同士の会話で、新しく覚えた感覚に名前をつける場面。例えば「Yグレード」という文字の意味がわからなくても、そう名づけられた瞬間のことを知っているだけで、言葉に背景が生まれる。
感覚を他者に伝えるために言葉が生まれ、物語になっていく過程にぐっときて、改めて、この物語を誰かにすすめてみたいなーと思ったりした。