「春にして君を離れ」/アガサ・クリスティー

先日、インフルエンザで高熱が出て、一日中布団の中にいたときに読んでいた本。ジョーンという主人公の女性が、バグダッドからイギリスへ帰る途中に足止めをくらい、一人きりになったところで自分自身について考えはじめる、という、ほとんどそれだけのお話なのだけど、しばらく1人きりでいなければならないようなときに読むのが一番堪える(うってつけともいう)内容で、ちょっと辛い読書だった。
この物語の面白いところは、ジョーンという女性の盲点が、ジョーン自身を語り手として浮き彫りになっていくところにある。
それは同時に、ジョーンの言葉を通して読んでいるこちら側にも盲点があるのではないか、知らず知らずのうちに、誰かを傷つけているのではないか、そしてそれは、知らなかった、では済まされないことなのではないか、と思いをめぐらせることでもある。

わたしがこれまで誰についても真相を知らずにすごしてきたのは、こうあってほしいと思うようなことを信じて、真実に直面する苦しみを避ける方が、ずっと楽だったからだ。/p250

ジョーンは、立ち止まらなくては見えないものを、見たのだと思う。そして、そのことが明るみに出たときにどうなるか。
しかしこの物語がおそろしいのは、そのような盲点は誰にでもある、ということもまた浮き彫りにしているところだ。物語の最後に、語り手が変わるのだけど、ここから先は、その登場人物の(もしくは読み手の)自戒の物語になるのではないかなと思った。

ちなみにこの本は、「焚書官の日常」さんの日記(http://d.hatena.ne.jp/./mutronix/20091129/p1)で触れられてるのを読んで気になって読みました。ありがとうございます。