目薬

この間の週末、もう寒いのは終わりかなと思ったけれど、まだストーブをつけている。来週には5月になるというのに、気温だけはまだ冬を引きずっているみたいだ。
いつだったか、渋谷で雨が降っていた日、友だちと傘をさして歩きながら私は質問をしていた。こんなことってあると思う、私にできると思う、とききながら、たぶん私は大丈夫だよと言って欲しかったのだと思う。でも、そのとき友だちは「自分にはそれは出来なかった」と言った。
あらかじめ答えを期待して質問するなんてずるいんだけど、その答えを期待はずれだと思ったりせずにすんだのは、彼の誠実さのおかげだった。そして、友だちは私が考えているよりずっと、私のことをよく知っているのだなとも思った。

夕方、友だちと待ち合わせてご飯を食べた。テレビを見ながら、瓶ビールをグラスに注いで飲んで、つまみにおいしいポテトサラダを食べた。なんの味だろ、チーズかな? いやチーズじゃない、なんだろ、なんて首を傾げつつ、こんなポテトサラダつくれるようになりたいねと言い合う。
連休の予定についてあれこれ話しながら、久しぶりに時間の速さと自分の気持ちが同じ速度に並んだような気がした。

しまったままだった本箱から、武田百合子さんの「日日雑記」を取り出して「目薬をさすように」景色を目に焼き付けるという言葉を読み返す。
ままならないことはたくさんあるし、へこむこともあるけれど、それで楽しかったことや好きになったものが押し流されてしまわないように、できるだけ、言葉を大事にしたいなと思った。