夜想曲集/カズオ・イシグロ

夜想曲集:音楽と夕暮れをめぐる五つの物語

夜想曲集:音楽と夕暮れをめぐる五つの物語

音楽をテーマにした短編集。
カズオ・イシグロの小説を読んだのは、「わたしを離さないで」(id:ichinics:20070123:p1)が初めてで、あの小説のことは今でも度々思い出す。とても好きな小説だ。
この「夜想曲集」は「わたしを離さないで」とはかなり印象が異なるけれど、一人称で語られる視線の「偏り」によって、ミステリを読むような、緊迫感が生まれるところは共通していると思った。
例えば『降っても晴れても』という、旧友である夫妻に再会し、なぜかその妻と2人きりで過ごすことになるという話がある。ある些細なトラブルから、雪だるま式にわけのわからない状況に陥っていく、その本人の視点から描かれているので、彼にわからないことはラストまで読者にも見えないままだ。だからといってすっきりしないということはなく、読みながらあれこれ想像する余白の形を作るのがとてもうまい人なんだなということを思いました。

ところで、私は小説でも漫画でも、短編集ってその人のいろんな面が見れるようで好きのなのだけど、あとがきを読むと、イギリスでは「短編集」は長編にくらべて人気がないらしい。
同一作家でも、長編に比べて4分の1程度と書いてあって驚き、ぱっと浮かぶ短編作家はそういえば、アメリカの人ばかりだなーと思った。

ところで、マーク・ロマネク監督による「わたしを離さないで」の映画予告*1を見たのだけど、これが予想以上に雰囲気がよくて、楽しみになっている。