「ビューティフルピープル・パーフェクトワールド」/坂井恵理

ビューティフルピープル・パーフェクトワールド (IKKI COMIX)

ビューティフルピープル・パーフェクトワールド (IKKI COMIX)

近未来、美容整形技術が格段に進歩し、それが当たり前となった社会を舞台とした物語。美醜という題材の扱いにくさを、SFとしてうまく昇華しているとても感じの良い作品集でした。

顔かたちと個人という問題においては、「接続された女*1ヘルタースケルター」「洗礼」*2「悲劇排除システム2」*3など名作がたくさん描かれているけれど、この「ビューティフルピープル・パーフェクトワールド」は、登場人物を少しずつ重ねながら描かれる群像ものという点でも、テッド・チャン「顔の美醜について」*4という作品を思わせるところがありました。
もちろん、物語やテーマは全く異なるもので、この作品の場合は、性別や体型すらも変えられるという設定で、個人を識別する境界線がとても曖昧な世界として描かれているところが特徴なのではないかと思う。
そのため、個人のコンプレックスの克服というよりは、自己肯定感を獲得する過程としてそれが使われているように感じるお話が多かった。特に、アニメキャラになってしまった兄と、その弟のお話は面白かった。「兄」が女になったことで変化する母親の態度もいい。気持ちが女性じゃない相手だからああなるんだろうな。
そして、美容整形自体が持つ力は、あまり大きくはない、というところがすべてのお話に共通した空気のようにも思いました。

残念なのは、これが1冊の短編集として完結してしまっていることです。
この世界を舞台に、まだまだ描ける物語があると思ったし、それこそ、美醜についてだけでない、顔かたちでは認識しきれない「個人」とは何かという部分に届くような気がした。作者はあえてそこに触れていないような気もしたけれど、できればそれが読みたいと思ってしまいました。