ブルーバレンタイン

監督:デレク・シアンフランス

恋愛における取り返しのつかなさというのは、もしかしたら始まったときから取り返しがつかないのかもしれないなー、などと少しおそろしいことを考えてしまうようなとりつくしまのない作品で、でもだからこそとても説得力のある「そういうものだ」としかいいようのない映画だった。
ある夫婦のすれ違いが決定的になる1日と、その恋愛のはじまりが交互に描かれる構成になっているのだけど、それが物語のしかけとしても、同一人物である俳優の表情ひとつひとつの落差を見せ付けられることで生じるやるせなさの装置としても機能している。
男女どちらの側にも感情移入することはなかったけれど、それは“彼”を魅力的に感じる瞬間と、耐えられないと感じる瞬間をほぼ同時に描いていくその手法がとても客観的だからだろう。見る側の視線は否応なく映画の時間軸に縛られるし、だからこそこの映画は切ない。
なにより、そのクライマックスが映画の終わりと同時にあるというのが、ずるく、素晴らしいと感じました。

人生において、最良と思える瞬間にエンドロールがながれるということはまずない。それは時とともに角度を変えていくし、でも、まあその逆もあるよねというような根拠のない気分のよさがあったのも確かです。
この2人の間にあるとりつくしまの無さには見覚えがあったし、それはどちらのせいというわけでもなく、「相性の問題…」なんていう月並みな言葉しか浮かばないのだけど、でも確かに彼らは出会って恋をしてだめになった。
とても説得力のある映画でした。時間をおいてまたいつか見たい。