夏待ち

店に入り、麺をひとつ注文する。声の消えていく軌跡を追いながら店内を見渡し、色褪せた花柄のテーブルに突っ伏して、黄色いワンピースの女の子が眠っているのに気づく。首ふり扇風機のリズムにあわせて、犬のしっぽみたいに逆立ちするその髪を眺めながら、じゃり、とサンダルと砂のすれる音がして、自分がみじろぎしたことに気づく。音が近い。店内の壁はすべて水色に塗られていて、なんだか水中にいるみたいだ。
手の甲で汗を拭う。もう動きたくないという気持ちと、あーおなかすいた、という気持ちが どちらも切実に肩を並べている。
運ばれてきた器からは、すっぱ辛いいい匂い。平たい麺にくだいたアーモンドと香菜が乗っている。
麺を最後の一本まで追いかけまわして食べ終え、アルミのレンゲでスープをすすり、どんぶりをわきによけてから氷の溶けかけた水を飲む。食道を水が落ちていくところをイメージする。
ゆっくりと水を飲む。
眼を覚ましたしっぽの主の大きなあくびにつられつつ、白い、表の光の向こうに海があるのを想像して、
はやく、夏になればいいのになと思う。