「コクリコ坂から」

監督:宮崎吾朗
昭和30年代後半の横浜を舞台に描かれるお話で、主人公は下宿屋を切り盛りする3人兄弟の長女。映画の冒頭で彼女が作る目玉焼きのおいしそうさに、ジブリを感じつつ、ご飯がおいしそうな映画はいい映画、と安心して映画にはいっていくことができました。楽しかった!

この作品の制作が発表されてすぐに原作を読んだのですが、設定以外はまったく別のお話になっていたと思います。原作はどちらかというと、問題児に振り回される主人公のお話で、正直なところ「ジブリっぽくないなー」と思って読んでいたのですが、登場人物のキャラクターと物語の軸になる「騒動」に大幅に手をいれ、裏表のなさが付け加えられているところはジブリらしいなと思いました。
けれど、それで「ジブリ」になったかというとそういうわけでもなく、これは確かに宮崎吾朗監督の作品なのだなと感じました。夏休み大作っていう雰囲気はないのだけど、生活している感触が気持ちのいい映画で、前作と比べると、ずっと生き生きとして感じられた。
特にいいと思ったのは、登場人物たちの心の動きを見せるその手加減。キャラクターを見ていれば自然とその流れが感じられるのがよかった。また、登場人物たちの関係性についても、説明すべきところと省くところがしっかり線引きされていて、バランスの良い作品だと思いました。
物語の中心になる古い建物の描写にはわくわくしたし、夕暮れの商店街の雰囲気にもぐっときた。物語の舞台は過去なんだけど、「ヨコハマ買い出し紀行」で描かれる懐かしい未来のような雰囲気があるのも気に入りました。思い返していると、あそこまた見たいな、って場面があちこちにある。好きな作品です。

余談ですが、時代設定も近いせいか「坂道のアポロン」とイメージがかぶるところもあるので、「坂道のアポロン」好きな人には特におすすめしたいです。