「苦役列車」の彼ら

監督:山下敦弘
遅くなってしまったけど見に行ってきました。
しんどかったけど、見てよかった映画。以下ネタばれですが登場人物について思ったことを書きます。原作は未読。

貫多(森山未來

楽しそうな人には冷や水をかけるくせに、自分が見下されたと感じると相手を激しく糾弾する主人公、北町貫多のキャラクター描写はすばらしいものだったと思うけれど、何か言えば言葉の鋭さでねじ伏せられるという状況には個人的に嫌な思い出があり、私は上映中ほとんどずっと歯を食いしばっていたような気がする。
ほんとうに、出口がないという状況はやっぱりあって、その中にいれば喉から手が出る程欲しいと感じるものに毒づいてみせたくなるのも、わかるような気はするのだけど、自らを振り返る視線が彼にはあまり見えないような気がして、それをしたら折れてしまうと考えているのかもしれないけれど、私は貫多のためらいのなさがやっぱりこわいと思った。
彼の切実さは画面の外にまで染出てくるようだったし、この映画を見てよかったとも思ったのだけど、「お前ら高見の見物か、いいご身分だな」と言われているような気持ちにもなった。そしてそれは今のところ正しい。

正二(高良健吾

対する正二は九州からでてきた専門学校生で、親からの仕送りで月6万円(だったかな)の部屋に住んでいる。そんな彼がなぜ肉体労働のバイトを選んだのかはよくわからないのだけど(学校に通ってる様子もあまり見られない)、ともかく彼はとても人懐っこい「いいやつ」だ。
ただ、屈託なく貫多の生活について「なんかかっこいいね」などと言ったりすることにはお腹の底がもやもやした。多分正二は自分と異なる世界にいるからこそ貫多に興味をひかれたんじゃないのかな。そして貫多がそこを追求しなかったのはなぜなのかと考えると、やはり友だちが欲しかったからだと思うし、そう考えると切ない。貫多にとっての正二はかけがえのないものだと思うけれど、たぶん正二にとっての貫多は、そうではないのかもしれないというところが。
正二は優しいし、かっこいい。でも、もっと怒るべき場面で怒らないことには、さみしい気持ちになった。

康子(前田敦子

そんな風に、この映画を見ている間はじりじりとしていたのだけど、シネマハスラーの感想で宇多丸さんが話しているのと同じく、私もこの映画における「康子」の登場シーンのすがすがしさは特筆すべきものだったと思っています。
演技がうまいっていうのとは違うんだけど、みずみずしくて、危うくて、「むき出し」の感じがする。現役アイドルにこれをやらせるのか、ってシーンもあるんだけど、康子ならやるかもなって思わせる、独特の佇まいがありました。
映画オリジナルのキャラクターとのことでしたが、この「むき出し」の建前などない感じが、貫多と対峙させるにはぴったりだったと思います。

そしてラストシーンですが、私はとてもいいなと思いました。あそこから飛び出す様子を、興ざめさせることなく描くのはすごく難しい事だったと思う。
自分の感想はだいぶ偏ってる気がするけど、もっといろんな人の感想を聞いてみたい映画だっただけに、早く終わってしまったのが残念。まだこれからやるとこあるといいけどな。