「アルゴ」

監督:ベン・アフレック
予告を見た限りではほとんど印象に残っていなかったのですが、twitter のTLでとても評判がよかったので見に行ってきました。そしてとても面白かった。

背もたれにゆっくりもたれかかっていられずに前のめりになって映画を見るのは久しぶりでした。ベン・アフレック監督作を見るのは初めてで、俳優としてもベン・アフレックさんのことは「アルマゲドン」のイメージしかなかったので、今作での抑えた演技はかなり意外ではあったのだけど、あちこちでイーストウッドと比較されているのもなるほどなーと思うような、これからの活躍に期待したくなる良作でした。

物語は1979年にイランで起きたアメリカ大使館占拠にともなう外交官救出劇を描いたもの。カナダ大使私邸にかくまわれていた6人の外交官をイラン国外に出すために、主人公(CIAの人質救出専門家)がたてた計画は、彼らを架空のSF映画の撮影クルーに仕立てるというものだった。
とはいえ、その計画を成功させるなんて何メートルも先にある針の穴に目隠しで糸を通すより難しいだろうし、失敗すれば全員殺されてしまうし、でもここにとどまっていられるタイムリミットも迫っているし、どうすればいいんだあああ…と思いながら目が離せない。
「でもまあ主人公一行は助かるんだよね…?」というのは実話ベースだけに見てるほとんどの人はわかっているはずなんだけど、だからといって安心なんてできない。勢いと圧力のある映画でした。

実話ベースの物語ならではの目配せみたいなものはあまりなく、つまりあくまでも娯楽作だったと思います。そしてその判断は成功していたとも思う。例えば、イラン側の人々の台詞には、ほぼ字幕があてられていないため「コミュニケーションの断絶」感がより怖さを煽っていた。
でもだからこそイラン側の人々の描き方は画一的であったとも思うんです。唯一キャラクターとして描かれていた人物についても、最後に亡命した場面を映しているのに、彼女のその後がどうなったのか、エンドロールでも明らかにならないのはひっかかりました。
でもこの映画の中で描かれる「映画」というものの扱いを思うと皮肉に思えて、見終わったあとあれこれ考え込んでしまいました。

ハリウッドの協力者コンビとか、板挟みになっている上司の事件は現場で起こってるんだ的啖呵とかいろいろドラマチックな見せ場もありつつ
個人的にはやはり、「撮影クルー」になりすますことに最後まで抵抗し、あわや計画失敗か、とハラハラさせる彼の機転にはガッツポーズをしたくなりました。こういうシーン大好き。
好きな映画か、というとちょっとためらうところがあるけれど、とても面白かったのは確かです。