「残り全部バケーション」/伊坂幸太郎

なんといってもタイトルがいいよねと思います。残り全部バケーション。
残り全部バケーション、って感覚は、例えば以前テレビで解剖学の先生が話していた「人間がもし野生動物だったら30才くらいが寿命である、しかし人はただ生物としていきるのではないのだから、おまけの人生を楽しむためにも骨を大切にしてください」という言葉が印象に残っているのだけど、その「おまけの人生」という言葉にも通じるところがあるように思う。ともかく、そんな訳で2012年に最後に読んだ本はこの「残り全部バケーション」でした。

残り全部バケーション

残り全部バケーション

この本は、少し不思議な青年「岡田」と、いい加減なおじさん「溝口」という裏家業コンビを中心に描かれる伊坂幸太郎得意の連作短編集です。それぞれの短編が描かれた時期は2008年の初出から書下ろしまで5年間に渡るとのことで、物語のテンポはどこかバラバラという印象もありました。ただ5年間にわたって描かれたせいもあるのか、伊坂さんの連作短編にしては珍しく時間軸も大きく移動した構成に中盤からぐっと引き込まれ、物語全てを包みこむ最後の書下ろし1話は最高に面白かったです。特にラストシーンは素晴らしくって思わずにやにやしてしまった。
この幕切れは文章ならではだけど、目の前に映像が浮かぶような、エンドロールが始まった瞬間に拍手したくなるような、映画化するなら内田けんじ監督かなー! と思うような瞬間でした。

何度か書いた事がありますが、伊坂さんの作品については、「オー!ファーザー」のあとがきにあった「『ゴールデンスランパー』からの第二部」に、正直なところまだピンときていなくて、でもこれも毎回書いている事のように思うけれど、伊坂幸太郎さんの小説にある誠実さのようなものが好きだし、だから新刊を読みたくなるのだと思う。